“Content is King!”で生きてきた コンテンツ研究会講演@青山学院大学【後編】

テレビとスマホにおける「共存関係」

そういう変化が起きたことを踏まえても、2014年までの調査ですが、テレビというメデイアは相変わらず強い。大手代理店の方は、クライアントによく言うそうです。「スマホメディア、ソーシャルメディアは、今後のポテンシャルありますけど、ちょっとやっておいたらよろしいけど、テレビの広告費は震災後ずっと微増です」と。ところが、質的なことは変わってきている。どういうことかというと、テレビが『ながら』になっているんです。つけてはいるけれど、『ながら』。なぜなら、スマホに真剣だからです。「スマホに真剣なわけがないだろう」と思われがちですが、スマホを見ている時間は、テレビよりはまだ短いんですね。けれど、たとえばLINEで「今から行くよ」と打つときに、適当にはできませんよね。打たなきゃいけませんから。でもテレビは、べつに流しておくだけでいい。視聴の度合いが変わってきたという流れを考えると、僕はスマホのメディア価値はさらに上がっていくだろうと見ています。iモードはもうないわけですから、今は「スマホのトップ画面にどんなアプリを並べるのか」ということが、企業の戦いになっています。スマホはカメラであり、メモであり、リモコンであり、もしかすると将来のロボットなのか、AIなのかもしれません。そういう前提で、今どうすればこのスマホの第一画面を取れるかというのが、企業の間では大きな課題になっていると思います。

現に、2013年の調査によると、スマホを見ている全時間の中の7割がSNSという結果が出ています。企業に行って、「社長、デジタル予算はどう使われていますか」と聞くと、「SEO対策かな。リスティングかな」と。そのとき僕は、「御社は全部グーグルのために予算を割いてますね」と言うんです。LINEの中での会話、Facebookの中の投稿を、グーグルは一切カバーできないんですよ。グーグルがカバーしている範囲はスマホ視聴では3割に満たなくて、実際にグーグルの広告売り上げは頭打ちです。あんなに強いグーグルだって、もう終わりの始まりがきてる。これがネット業界の変化の早さなのてす。今、日本の大手企業、日経インデックス255社でいうと、デジタル予算平均が、広告宣伝費の中の10パーセントぐらいだそうです。その中でさらにソーシャルに割いているお金が10パーセントぐらい。つまり全体の1パーセントなんですね。イギリスではデジタル予算が35パーセント、半分がソーシャル予算です。それを進んでいると判断していいかは分かりませんが、現にそういう違いがあります。

テレビとスマホ。この両者は、じつは共存できるメデイアです。テレビをつけながらスマホをやっているわけですからね。でもテレビをつけながら、スマホをやりながら、雑誌は読まないし、新聞も読まない。そこで今また、情報流通の経路が変わってきてるんです。たとえばテレビでシャンプーのCMを関東で3千GRPうつと、その商品の認知度が15パーセントぐらいになりますが、スマホに同額の広告コストを使ってもそうはなりません。なぜなら、スマホ広告の見方が他のメディアと違うからです。「これは広告だな」と、利用者が見破るんです。「俺には関係ない。俺は無料でゲームを楽しむ」という人たちばかりですから、時間だけがひたすら費やされていく中で、「共鳴共感」というコンセプトを基軸にしなくてはいけない。YouTubeやLINE、Facebookのターゲティング広告というのは、これまでの「マス」とは違うメデイアです。以前は、「ちょっと電通さん、広場にたくさん人を集めてよ。一番でっかい拡声器を持ってるテレビ局を使ってバーンと言ってくれよ」というのが、マスコミの主流でした。もちろん今でもありますし有効だと思います。けれど、ソーシャルの人たちは、どこに住んでいるのか分かりません。メディアバイイングに慣れた広告代理店も、手間の割には効果も見えにくいので、ソーシャルメディアはあまりやりたくないように見えます。でも、狙いたい層が住んでる所を知ってる水先案内人は必ずいるんですね。その水先案内人になろうというのがソニー・デジタルなのです。ただ、どの場所にも詳しいわけじゃない。サブカル好きしか集まらないサンフランシスコならあそこだけども、ウィスキー好きのロンドンのイケてるとこならあそこだし、イベント好きのアジアならバンコクのあの人だよ、というような小部族が無数に存在するので、テレビCMのように1本のホームランで物が売れない現代では、バントをしたり、いろんな工夫をしてモノやサービスを浸透させなければいけない。それが、この多メディア時代のちょっと面倒なところかもしれません。