“Content is King!”で生きてきた コンテンツ研究会講演@青山学院大学【後編】

メデイアの変化から読み解く消費モデル②
〜クラウドファンディングと貨幣価値の変化〜

先日、若い哲学者の山口揚平さんと対談しました。彼が面白いこと言ってました。「ヘルシンキの最高のデザイン大学に行ってディスカッションをしたら、びっくりした」と。「日本人はチームワークかもしれないけども、多分、近未来は俺たちが勝つ」と。「なぜなら、俺たちは個が強いから、俺が乗りたい車は自分でCADデザインして、3Dプリンタでプリントする時代が来るから、トヨタに勝てる」と。それは本当に起こりえることかもしれません。クラウドファンディングが流行ってますが、あれは最小ロットの物作りプラットフォームですよね。究極が3Dプリンタによる1つだけの物作りと思います。
ある文具メーカーが、「このホッチキスは売れるか売れないか」という企画会議で、役員が「ノー」と言えば発売できない。でも、クラウドファンディングで、最低限の民意が得られたら、発売して大ヒットがありうるかもしれない。キックスターターっていう大手クラウドファンディングがありますけども、1000万円以上集めている企画の9割が大手企業なんです。GEであり、ソニーなんですね。じゃあ、GEとソニーが一つの商品開発するのに1000万円ないかというと、ないわけない。でもそれでは民意が分からないんです。クラウドファンディングというのは、新しいR&Dであり、支持を得られれば新しい物作りのプラットフォームになりうるんです。それは前述したように、消費モデルが変化したので、「みんなが持っているものは、べつにもう欲しくない」というところからスタートしています。世界的にはキックスターターが世界最大手で年間700億円くらいの市場を持ってます。日本ではMakuake(マクアケ)というところがトップですが、当社はそういう新しい商品開発において、ネーミングやデザイン、クリエイティブサービス、そこで配信する映像制作含め、すべてに携わっています。

クラウドファンディングで世界でいちばんヒットした商品というのは、キックスターターで企画された「Coolest Cooler」という多機能クーラーボックスです。15億円集めました。単なるクーラーボックスなんですが、スピーカー付きで、氷が出るという、本当にたわいないものなんですよ。ドン・キホーテで明日売られていてもおかしくないような商品に、多額の資金が集まっているのです。エンターテイメントの領域でいうと、映画監督スパイク・リーが映画資金の提供を募りました。「3億円ぐらいの映画、作りたいんだよね。一番たくさんお金を出してくれた人へのご褒美は、僕のディレクターズチェアの横で、一緒にディレクションを見れること」。3億円が、瞬時に集まりました。

クラウドファンディングにしても、今後は貨幣価値の変化が起こると見ています。電通に「ソーシャルデザイン室」という素晴らしい部署がありまして、クリエイティブディレクターは、僕の友人でもある並河進さん。並河さんいわく、「お金の価値は今後変わっていくだろう」と。かつては、「みんなが所有したいから、たくさん稼がなければいけない」という時代の中で、僕のようなバブル世代が生まれたわけですが、次世代の人たちにとってみれば、前述のように、「モノは利用でいい」という、消費に対する考え方が変わってくると「わざわざお金を払ってホテルを取らなくても、未来の友逹の家に泊まって、そこで空いている車があったら借りる」ということでいいわけです。この経済圏が浸透すると、GDPに反映されない経済活動が増えてくる。ということは、概念として、100円玉が100円じゃなくなる可能性があるわけです。そこで並河さんが手がけたのが、「お金で買えないオンラインセレクトショップ Without money sale」というサイト。たとえば、「非常にレアな梅干しが、限定10個しかないので、いくらお金を積んでも売ることはできません」というんです。どうやったら手に入れることができるかというと、方法は3つ。「愛で買う」(梅干しへの愛を原稿用紙3枚)「知恵で買う」(梅干しを盛り上げるアイデア3つ)「時間で買う」(梅干しを深く理解する時間として、生産者の想いを聞き、梅干しづくりを学ぶ)。「エントリーした人の中から選考して差し上げます」というところに、応募が殺到したんですね。サイトを見れば分かりますが、毎回非常にユニークな商品が出てきます。「共鳴共感」がないとものが得られないとき、人はどうするかという実験的試みなのではないかと思います。
ソーシャルデザインとはどういう考え方か、よくわかる並河さんのやった事例があります。ネピアという企業が、トイレットペーパーをどう売ろうかというとき、従来であれば「まず3億円ぐらいは用意してもらって、テレビはこう、販促はこう…」とメディア戦略の設計が主だったと思います。並河さんは、コピーライターとしてこの方法に疑問に思ったんです。素晴らしいコピーを書いたからといって、トイレットペーパーが売れるのだろうかと。そこで彼が世界中で一番トイレのない国を調べたところ、東ティモールという東南アジアの国だった。東ティモールは衛生状態が悪くて、子どもの感染病が多かったんですが、「収益の一部でトイレを作ります」と宣言して、合計9千のトイレを作ったんです。そしたらネピアのおかげでトイレができて、病気が激減し、子供の死亡率も劇的に下がりました。今、東ティモールのトップシェアはネピアなんですよ。長期的に見たら、非常にソーシャル的で長期的な方法だったわけですね。