『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【前編】

並河進 × 福田淳 対談
ソーシャルデザイン入門【前編】

「自分のため」から「社会のため」へ。

電通の並河進氏と、ソニー・デジタルエンタテインメントの福田淳氏が、成蹊大学経済学部の学生に向けて、21世紀型の「広告の新しい形」と経済、働き方について読み解く。

ネットメディアの端境期に活躍する両氏のものの見方、キーワードは非常に刺激的で、ライブ感溢れる講義内容になった。後編には、学生との質疑応答も掲載。

構成: 井尾淳子 撮影:越間有紀子

日時: 2015年12月 場所: 成蹊大学

並河 進氏(写真左)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表。社会貢献と企業をつなぐソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)『しろくまくんどうして?』(朝日新聞出版)『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)ほか著書多数。

福田 淳氏(写真右)

ソニー・デジタル エンタテインメント 社長
1965年生まれ。日本大学芸術学部卒。アニメ専門チャンネル「アニマックス」など多数のニューメディア立ち上げに関わる。(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント バイス・プレジデントを経て現職。

バブル崩壊から始まった広告の「ソーシャルデザイン」

福田:本日は、「これからの社会にとっての、広告の新しい形」をテーマに、並河進さんをゲストにお迎えして、みなさんとお話ししていきたいと思います。

並河:電通という広告会社で、クリエイティブ・ディレクターをしている並河進と申します。ちなみに、広告に興味のある人、関わってみたいと思っている人ってこの中にいますか?(挙手あり)結構いらっしゃいますね。そう、広告は楽しいですよね。僕がつくっているのは、広告は広告でも、「ソーシャルデザイン」という、これからの時代の新しい広告になるだろうと信じてやっている広告です。今回は、そのあたりのお話ができるといいなと思っています。

福田:「知的好奇心をくすぐる」というテーマで、動画なども観ていただきながら、ライブ感覚でお話できたらと思います。よろしくお願いします。

並河:よろしくお願いします。

福田:僕は、並河さんの著書『Communication Shift』(羽鳥書店)をボロボロになるまで読ませていただきました。とても、心に刺さったんです。
僕自身は今50歳でバブル世代ですが、新卒で東北新社という制作会社に入って、コカ・コーラのCMプロダクションマネジャーをやっていたんですね。当時は映画と同じように35ミリフィルムで撮影をしていたので、コカ・コーラのCMを1本作るのに、2000万円ぐらいの予算がかかっていて。広告の世界も、糸井重里さんや川崎徹さんなどの大御所のコピーライターの方が手掛けると、キャッチコピー一つ1000万円、というような時代でした。雑誌も『STUDIO VOICE』とか、まだまだ元気な時で、そういうマスメディア全盛期に社会人生活のスタートをきったわけです。
それが21世紀に入って、インターネットメディアが普及していく中で、僕の世代ではそういう世の中の変化にあまり付いていけていない人が多いと感じている時に先ほどの『Communication Shift』を読みまして。すると、「ドリームデザイン」の石川淳哉さん(*1)の言葉として、これからは広告の形が変わると書かれてあって。広告という言葉は「広く告げる」と書くけれど、間にレ点が入るので、「告げて広げる」と解釈するとありました。つまり、これからの広告はそんなふうに変わっていくんじゃないかというところを読んで、非常にハッとさせられました。
そもそも、「ソーシャルデザイン」とは、どういう考え方なんでしょうか。

並河:僕は今42歳なんですが、電通に入社した当時は、ちょうどバブルが終わった頃です。広告における「ソーシャルデザイン」という考え方をお話するには、バブル時代のことに触れる必要があるので、まずそこからお話しますね。
先ほど福田さんがおっしゃったように、バブルの頃の広告というのはとにかく花形職業で、会社の中でも広告宣伝部というとすごく力があって、予算もバーンと付いて、CMを出せばものもどんどん売れるので、細かい商品説明なんかしなくてもいいから、「大きいメッセージを出していこうぜ」みたいな風潮があったように感じました。「広告自体が社会を動かす力」みたいものが信じられていた時代だったんですね。当時は、インターネットもなければSNSもない、人が触れるコンテンツが少ない時代だったので、テレビCMって、じつはみんなが楽しみにいているコンテンツのひとつだったんです。
ところがバブルが終わり、ものがなかなか売れにくくなってくると、CMもクライアントから「もっと商品について言ってほしい」と要求されるような流れに変わってきました。バブルの名残と、ものが売れなくなった時代の到来の狭間で、「これからはどうすればいいだろう」と考えた結果、「これはいい商品ですよ」とただ言い続けるのは、もう違うんじゃないか、と。広告を信じてもらえなくなっていくような時代に、無理やり企業や商品を信じてもらおうとするのではなくて、何か新しいやり方はないかと模索する中で見えてきたのは、企業や僕たちのような広告会社が、「社会にとって本当にいいことをする」という考え方です。
ソーシャルデザイン自体は、もともと、欧米から生まれてきたものですけれど、広告の世界におけるソーシャルデザインとは、「伝える」というよりも、「何かことを起こすこと」。商品を通じて、「社会にとって本当にいいことをしてみる」ということ自体が、新しい形の広告ではないのかなと。それが「ソーシャルデザイン」のひとつのありようではないかなと僕は思っていますね。

(*1)石川淳哉
株式会社ドリームデザイン代表取締役、ソーシャル・バリュー・プロデューサー。世界のさまざまな社会課題を解決するために、クリエイティブの可能性を追求している。書籍『世界がもし100人の村だったら』の出版に関わる。