『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【前編】

自分の居場所をつくる発想がソーシャルデザインにつながる

福田:ちょっと話がそれるかもしれませんけど、ネットのいいところと悪いところで言うと、悪いところは個人が情報発信できちゃうので、ネットいじめとかLINE殺人事件とか、負の方向に使おうと思えばすごくバイアスが掛かるわけですよ。でも、本当はネット上で褒めるとか許すという行為がもっとシェアされたらいいと思います。今は物凄くそれが足りないと思うので、今後は「寛容さ」をどう表現するかが、僕の大きなテーマにもなってます。
Facebookは、おいしいものを食べたとか、どこかに旅行へ行ったとかが多いんですけど、先日、東京大学の人間支援工学という先端系の中邑賢龍教授が、「いや、自慢でいいんだよ」と。引きこもりの子どもの両親から「うちの子どもに自信を持たせるにはどうすればいいでしょうか」とよく相談されるらしいのですが、そういうときも、「たくさん自慢をさせると、自信につながりますよ」と答えるそうです。その考え方、僕はとても合理的だなと思いました。だからアイスの棒を集めるとか、興味あることや得意なことはどんどんやらせるのはすごくいいと思う。僕らも王冠のキャップ集めたり、やりましたよね。とくにゴールはないんですけどね。

並河:そうですね。アメリカのプレゼンテーションイベント『TED』の日本版『TEDxTokyo Teachers』でスピーチをすることになった時に、幼少期の頃の思い出から話をしたんですね。自分はスポーツが苦手だったんですが、小学校の頃って、スポーツができる男の子とできない男の子の2種類しかいなくて、自分はできなかったので、そうすると女子にモテない。それで、スポーツができないなりに、自分で新しい成功モデルを考えなきゃいけなくて。

福田:当時から、並河さんにはそういう思考があったんですね。体育会系じゃないけど、イケているモデルを作ろうと。

並河:ありました。「自分でこのモデルを作らなきゃいけないんだ」みたいな気持ちがあって。それで、とにかく新しいことをやろうと思って。中学時代は漫研だったんですよね。これもまた、モテなくて。漫研メンバー全員で、「このままじゃモテないよ。やばいよ」みたいなことを中学3年ぐらいのときに話して、漫研メンバー全員でバンドを始めたんですよ。

福田:やっぱりバンドに行きましたか(笑)

並河:はい。昨日まで漫研ですけど、きょうから全員バンド(笑)。

福田:それしかないんですよ。体育会系以外のイケているものは。

並河:でもちょっと変なんですよ。バンダナも初めて巻くから、はちまきみたいに巻いちゃったり。なんかいろいろおかしい所が多々あるんだけど、ボン・ジョヴィを歌いまして、もてたいので。でも、何か始めるって素敵じゃないですか。

福田:この間、藤子不二雄(A)先生が「最近、漫画家を目指す奴は、なかなかいないよ」とおっしゃっていましたね。
「世の中の若いやつは、今流行っているメディアに行くから」と。だから漫画の次はゲーム。今だったら、「CGできる」といったら、ちょっとイケているわけですね。CGアーティストっていうと最先端でイケてるという感じにはなれます。今「漫画」っていうと、ちょっと60年代っぽい感じがしますよね。ゲームっていうと、80年代っぽいじゃないですか。でも「CGやっていますよ」って言ったら、ちょっと2000年まで来ますよね。

並河:そうですね。僕はモテたくてやっていただけなので、形から入っていった感じで。その後、ダンスを始めたんですよ。ダンスが流行りだしたので、ラジカセを持ってヒップホップを鳴らして、高校の廊下で1人で「ヨーヨー」みたいに踊って。当時高校にダンス部がなかったので、その学校では僕がナンバーワンダンサーだったと。

福田:そこで、スペースを見つけたわけですね。

並河:見つけましたね。バンドは上がいたけど、ダンスは他にはいなかったので。それでずっとやっていたら、一つ下の後輩4人ぐらいが「並河さん、ダンス教えてください」みたいな感じできて。それで「ウエーブはこうやるんだぜ」とか、全然できていないのに、クニャクニャした動きをきちんと教えたりして、みんなも「これでいいっすか」みたいな。そういう感じで、一つの新しい部活みたいなものが、そこに生まれたんですよ。

福田:それは、今のソーシャルデザインにすごく近いんですよ。僕らの学生時代は雑誌全盛時代で、『POPEYE』に「これからはこの髪型」って書いてあったら、みんなベリーショートにしなきゃいけなかったり、反対に髪の毛伸ばさなきゃいけなかったり。一律で「大手メディアに対応したライフスタイル」というのをきっちり守っていましたから。でも今はもっと多様性があって、みんないろいろなことをやっても別にいいじゃないですか。

並河:そうなんですよね。