『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【前編】

僕たちは、20世紀と21世紀の端境期に生きている

福田:「ものを売って、社会を良くする」というのも、並河さんのご著書にあった言葉ですね。小林製薬さんの「アンメルツ」という肩こり・筋肉痛の医薬品が今年で50周年なんですが、そのキャンペーンの企画考えている時に、ソーシャルデザイン思考で考えてみました。旧来の発想でいうと「50周年だから派手なイベントをやって、テレビCMも大々的に」というコミュニケーションになるんですが、小林会長がなぜ肩凝りをなくしたいと思ったのか、というところに視点を置いてみることが大切かなと思ったんですね。時代が変わっても、やっぱり肩は凝るんですよ。「スマホ肩」が問題になっている今だからこそ、「肩凝りをなくしたい」という社会に必要な要素があって、そこからコミュニケーションデザインを通じて、クリエイティブな表現にたどり着くという流れが、今は導線として正しいような気がして。そういうことを発信する広告人は、まだ少ないですよね。

並河:そうですね。そう思うと今の世の中、大企業と呼ばれているような会社は、戦後ベンチャーとして「社会のために、何か役立つようなことをしたい」という思いから創業して、それが仕事になって、大企業になって……という循環になっていったわけですが、あらためてそういう流れがまた戻りつつあるのかなと思ったりしますね。

福田:商品とサービスの受発注関係の中でも、クライアントの方が、「これを売りたいんです」と言った時によく話を聞いてみると、申し訳ないんですけども、「それ、本当に必要かな」という結論になることもあります。そうなると、お金のためだけにビジネスをするという部分を除くと、これからは本質的に必要なサービス、商品しか残っていかないんじゃないかなと。例えばソニーの歴史を見ても、「こんなものがあったら生活が潤うかもしれない」というモチベーションのもとに生まれた商品が、大ヒットしました。「歩きながら音楽を聴きたい」と、1970年代に当時の会長の盛田昭夫さんが単純にそう思ったから、「ウォークマン」という商品はできたと思うんですよ。でも何かの商品をつくるのに、「えーと、この商品はですね」って、いちいち説明が長いようだと伝わらないし、「そもそもこの商品って必要なの?」となる。「もう工場も作っちゃって、従業員も組織もいっぱいあって、それを作り続けないと回らない」という社会の需要とは無関係の、組織や会社の需要でやってきたところに、21世紀になってインターネットみたいなメディアがパーンと出てきてインフラ状況が激変した。
僕と並河さんは、20世紀と21世紀でインターネット革命の端境期に、たまたま生まれて育ったんですよね。

並河:そうですね。おっしゃるように、メディアの端境期に生きている実感を僕もすごく感じています。もっと上の世代は、いわゆる大量生産・大量消費の時代を生きていて、もっと若い世代には、最初から地方でコミュニティーを作って仕事をしていくという生き方もあったり。僕らはちょうどはざまで、いわゆる大きな世界と小さな世界の両方を見ている。大きな世界が「グローバリゼーション」を追求する一方で、小さな世界は「もう少し身近な人を大切に、幸せを追い求めていこう」という、その端境期にいるなといつも感じています。

福田:そうですね。先日、哲学者の山口揚平さん(*2)と話した時に、彼が面白いことを言っていました。ヘルシンキのデザイン学校でディスカッションをしたら、「日本人はチームワークもいいし、いい製品を作ってきたかもしれないけど、21世紀にはもう無理だな」と言われたそうです。「俺たちは、欲しい車があったら自分でデザインして3Dプリンターでプリントアウトするから、もう大量生産も要らないし、在庫も要らなくてエコだし、どうだ!」と。極端にいえば、チームワークが苦手で、個が強い民族でもこれからはオッケーだっていう。そういうスモールコミュニティーがICTを通じてグローバル化する。これが昔のヒッピー的なコミューンとの似て非なる違いかなと思うんです。

並河:そうですよね。確かに何千人もの人が、一つの会社の中でものを作っていくようなことをしなくても、もう少しいろいろな能力を社会の中でつないで、何かを作り出せたり売り出せたりできるようになっていったほうが、すごく幸せなことかもしれないですけどね。

福田:最小単位の労働で売るべき成果物があったとしたら、それがいわゆる「成熟した社会」なのかもしれませんね。今日はこれから大学2年、3年生になる方が多いとお聞きしたんですけども、就職するにも、「名前がある会社に行かなきゃいけない」というムードはかなり薄くなってきたような気がしますね。自分の手に職があって、かつやりたいことがあったら、別に会社に頼らなくても生きていけるじゃん、という前述のヘルシンキバージョンの考え方でやっていけばいい。先輩に頼んでどこかの会社に入れてもらう必要なんかないんじゃないかと、今僕が大学生だったら、そう考えると思いますね。

(*2)山口揚平
日本のコンサルタント、思想家、ファンダメンタル投資家、作家、企業家。ブルー・マリン・パートナーズ株式会社代表取締役。個人投資家応援サイト「シェアーズ」代表。