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出版業界のコンテンツマーケティングの将来

質疑③
われわれは印刷業なので、お付き合いをしている出版社が多くあるわけですが、コンテンツを扱っている割には、マーケティング手法といいますか、新しいトライアルをされているところは少ないように思います。出版業界の中で、いろいろ新しいトライアルをされている会社についてご存知でしたらご教授いただきたい。あと出版業界自体のコンテンツマーケティングの将来について、どう考えておられるのか。

福田:「ウェブはテレビや本や雑誌の代わりになる」と言われてきましたが、最近それには疑問を感じています。あるアパレル会社のクライアントさんから、「ウェブ動画の1視聴と、テレビの1視聴が同じという換算で費用対効果出してくれ」と言われたのですが、そうするとめちゃくちゃデジタルは費用対効果がいいように見えてきます。でも普通に考えてみると、テレビの15秒CMとウェブで流し見している1ビューが、同じ深さのわけがないんですよね。

デジタルフラウド(詐欺)というのが、世界的に広がっています。ヨーロッパでは、イギリスの公的機関が自動的に広告を打っている先が、ヘイトスピーチや人種差別の映像だったことで騒動になりました。コンピューター制御で、正しいクライアントのメッセージが正しいコンテンツに届いてないということで、約5000社のクライアントがYouTubeから降りました。こういうのを「アドテク」と言います。ウォール街と同じように、9割の取引はコンピューターが決めているんです。 ロレアル社も以前は自動的に50万サイトを出稿していましたが、アルバイトを雇い、目視で全部チェックさせて5000サイトに絞ったところ、特に効果変わらなかったそうです。一方、アメリカのP&G社では、前期の四半期で140億円分のデジタルのアドテクをやめて、テレビCMに回したら、売り上げが2割増えたというんですね。

デジタル知らないと「時代遅れ」と思ってしまいがちですが、知れば知るほど、実はテレビ、雑誌、本の世界にもやりようがあるんです。ただ、デジタルは「これは1000世帯当たり600円でリーチしています」などと反応が数値化できる点で、代理店の担当者がクライアントに説明しやすいんですね。でもユーザーの立場からすると、スマホを見ていればいろいろな広告が出てきますが、「じゃあ皆さん、今日スマホでどんな広告をご覧になりました? 何が印象的でした?」と問われても、たぶん何にも覚えてないと思います。それぐらい届かないのがデジタル。それを乗り越えるために、僕自身もこれからはアナログ志向で、ストーリーマーケティング、体験マーケティングを大切にしていきたいと考えています。

また、全てのエンタメ業界で「インディーズ化」が進んでいますよね。音楽も昔はメジャーが8割でしたが、今はメジャー全部を入れても半分ないですよね。インディーズレーベルのほうがはるかに数が多くて、全体のシェアが半分以上になっている。独占の時間がたまたま長いのは、出版だけですよね。取り次ぎなどの流通の関係があるわけですが、でも決算を見てみると、どこも悪いじゃないですか。だから、続くわけがないですよね。一方のテレビ局はどんな腐ったといっても、日本の場合は自分たちの仕入れが電波で、タダで仕入れているので崩れようがない。テレビは絶対に潰れないし、やり方によってはずっと儲かりますよね。見る時間が減ったとしても、テレビが揺らぐことは絶対、ないと思います。

でも出版社は、そうではない。ただここ1年くらいですが、ディスカバー・トゥエンティワン社など、キュレーションする目が鋭い中堅の出版社はヒットを連発していますよね。

以前、六本木プリンスがあったところに『週刊プレイボーイ』(集英社)の大きな看板スペースがありました。でも、そういうずっと持っている看板の場所にひたすら広告を打ち続けたところで、リーチする可能性ってほぼないですよね。そういうムダがずっとある。恐らくこれまでの仕組みで回るのは、あと何十年も続かないのではないでしょうか。今後、出版社もインディーズ系が過半を占める時代が来る。ベストセラーが出にくい状況というのは、テレビのアイドルもCDも、全部同じですから。一方、すごい付加価値の高いものを手掛けて、部数はごくわずかだけれども、あらゆるターゲットに突き刺さるような出版物。これは今後もものすごく注目が集まると思います。アートの世界で言いますと、リプリントよりも、ユニークな一点の作品で、村上隆さんのような売り方をしている人が勝つと、僕は見ています。

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