ソーシャルメディア時代だからこそ、「極め人」より「フラクタル」

ソーシャルメディア時代だからこそ、「極め人」より「フラクタル」(前編)

構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
2018年3月27日

草野絵美氏(写真左)

アーティスト(ライター,MC,歌手活動等)。1990年、東京出身生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢大学環境情報学部卒業。2013年から歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」として活動を開始。再構築された80’sサウンドに、ポストインターネット世代の違和感をのせて現代社会を歌う。スウェーデン発のアニメ『Senpai Club』の主題歌提供、米国インディーレーベル『New Retro Wave』からのリリースにより、欧米を中心にファンを増やし2017年には「サウス・バイ・サウスウエスト」に出演を果たした。音楽活動にいたるまでは、10代はストリート・フォトグラファーとして原宿を中心に海外メディア向けに活動。ニューヨーク州立ファッション工科大学付属美術館「Japan Fashion Now」に写真作品が貯蔵されている。20代前半はITベンチャーを起業に挑戦し、アプリ製作に携わり、MITメディアラボ所長伊藤穰一氏とデジタルガレージのインキュベーターに所属。スタートアップ大学卒業とともに閉じたが、現在は音楽活動の傍ら、広告会社に勤務を経て、5歳児の母親でもある。

福田 淳氏(写真右)

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。(2007-2017まで社長) 横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学院 客員教授。 1998年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社 バイスプレジデントとして、衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わる。 NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。

アーティストであり、広告プランナーであり、 一児の母でもあり。SNS育ちのギークガール

福田:絵美ちゃんと3年前くらいに初めて会った時に、「前に会ったことのある人」だとなぜか思い込んでいて。とってもフレンドリーで、ひゅっと心に入ってくる印象だったから、「あれっ、久しぶりの懐かしい人にあったな」と一瞬思ったんだけど、それは勘違いで、話し始めたら全然会ったことのない人だったという。

草野:そうでしたか(笑)。

福田:その後も「草野絵美」という人が何をやっている人なのか、よく分からないままなので。今日はそれを解明しようと思ってお招きしました。

草野:よろしくお願いします。

福田:草野絵美というと、まず歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」の主宰で、ボーカル兼作詞家。そしてアーティストであり、広告プランナーであり、5歳の男の子の母であり、という紹介になるのかな。

草野:そうですね。福田さんは、そういう私の肩書きをすべて含めて、「フラクタルアーティスト」と名付けてくださいましたよね。2018年の「Art Hack Day(アートハックデイ)」(*1)の時のリリースに、「フラクタルアーティスト・草野絵美」と書いていただきました。

福田:フラクタルというのは、フランスの数学者ブノワ・マンデルブロが導入した幾何学の概念で、「形の適宜な一部を取っても、それが全体と似ている成り立ちをしていること」という意味なんだよね。

草野:なるほど。

福田:で、なぜ僕が絵美ちゃんを「フラクタルアーティスト」と称したかというと、クリエィティブラボ「PARTY」の代表取締役・伊藤直樹さんから伺った話と結びついたからなの。伊藤さんは、NIKEやGoogle、SONY、無印良品など、企業のクリエイティフブディレクションを手掛けている方で、 京都造形芸術大学の情報デザイン学科の教授もされていて。伊藤さんによると、その大学の映像授業の講義で、4年間全く課題をやってこなかった女子学生がいたんだって。編集とか撮影の授業をやるんだけど、「私にはとても出来ません」って。でも、卒業制作で短編の映像制作の課題を出したら、「Blue」というテーマで全編青ばかりの素晴らしい映像作ってきたと。「映像も音楽も、全部自分で作ることができる、ということを教える授業なんですよ」ということなんだけど、でも今までの社会ってそういうのは分業になっていて、一人であれこれやることは許さなかったんだよね。

草野:映像なら映像、音楽なら音楽と、ひとつのことを極める「極め人であれ」ということですよね。

福田:そうそう。「石の上には3年」を我慢して修行して「極め人になれ」というのは、今も社会全体に残っている風潮。「3年ぐらいは我慢してひとつのことをやらないと、社会人としてものにならないぞ」と。でも、本当にそうなのかなと思うんだよね。
たとえば「フラクタルアーティスト」のことを、身も蓋もない翻訳をするならば、作曲が100パーセント出来るわけではないし、楽譜も読めないし、演技も専門的に学んでいたわけでもない、となる。でも、そうではあるんだけど、いろんなことに挑戦して、いろんなことが「ある程度出来ちゃう」という人たちでもあるんだよね。この「ある程度、ちょこちょこ出来ちゃう」というのが、今の時代、すごいことじゃないかというのが、フラクタルアーティストの定義なんです。こういう人が今すごく増えていると、前述の伊藤さんに教わって、それがとても印象的だったんですよ。

(*1)アートに特化したハッカソンイベント。一般応募から選出された50~60名のアーティストとエンジニア、研究者などが一堂に会し、アートとテクノロジーが融合した作品を3日間で制作する。草野絵美は人工生命カラオケ『Singing Dream』を発表し、審査員特別賞を受賞。

TOPへ