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これからのエンターテイメントはダイバーシティを描かないと駄目

ソーシャルメディア時代だからこそ、「極め人」より「フラクタル」 Talked.jp

福田:あと、前に絵美ちゃんにリコメンドしてもらったおばかSFムービーのタイトル、なんだっけ。とにかくなんでも機械がやってくれる話。

草野:『IDIOCRACY(26世紀青年)』(*8) ですか。

福田:そう。全員がばかになっちゃった近未来の設定で、あの「ばかな感じ」っていうのは、未来じゃなくて今じゃないかっていう。

草野:そう、今なんですよね。あの作品ではAV男優が大統領になっていましたけど、あれってドナルド・トランプですよね。

福田:そうだよね。今を描いているよね。だからコメディーの中に、ある社会性を描くことは可能だね。

草野:Netflixのコメディーって社会風刺が多くて、結構ジャーナリズムなんですよ。リベラルな人たちが観ているし、リベラルな人たちが作っているというのを、すごい感じるんですけど。

福田:間違いないね。サンフランシスコっぽいし、ハリウッドじゃない。ただ日本の東京のテレビ局は、まだちょっとロサンゼルスなのかもね。だから大阪とか名古屋のローカル局にに期待したいね、サンフランシスコ化することに。

草野:『ブラックパンサー』(*9)が今年公開されて、黒人の監督による黒人を主人公にした映画として注目されましたよね。キャストや制作スタッフも大半が黒人で、世界中からアフリカ系のプロフェッショナルが集結して。これまでは黒人の俳優が主役の映画って、「黒人向き」「黒人のノリ」みたいに言われてきましたけど、『ブラックパンサー』は大ヒットして、『アベンジャーズ』を超えて、北米で史上最高の興行成績になりました。

福田:この前のアカデミー賞で、メリル・ストリープに立たせてさ、「女性の復権」って叫んでいたけど。2002年のドキュメンタリー映画『デブラ・ウィンガーを探して』(*10)では、ある年齢を超えると、ハリウッド女優が映画に出演できないと。恋人役から母親役になれる人のパーセンテージも少ないし、なんで母親役しかないわけ、というのがそもそもあって。それが10年以上続いていて、何にも変わってなかったけど、黒人の俳優が主役の映画を1本撮っただけですごいと評価されたってことは、社会がよっぽど遅れているということだよね。

草野:そうですよね。黒人による黒人の映画がヒットしたということは、アジア人はまだだいぶ先ですね。

福田:ロサンゼルスに行って日本人の友達と会うと、かわいらしい女の子がラーメン屋で一生懸命バイトして、アメリカ社会に馴染もうと頑張っている光景を目にするのね。で、白人女性には相手にされないような、どうしようもないギーク(*11)の白人男性と結婚して、幸せそうにしているわけ。言い方ひどいけどね。でもそれはまだマシで、日本人の男はすごい頑張って流暢に英語を話せるようになっても全然モテないし、相手にされなくて終わりっていうのが多いわけ。そういう現実見ると、マスメディアが与える影響力って大きいと思う。だから、これからのエンターテイメントはダイバーシティを描かないと駄目だよね。

草野:本当にそうですよね。ハリウッドで活動している女優さんの知り合いは、アメリカで生まれ育ったから、日本の血は入ってるけど日本語は話せないんですね。それなのに回ってくるのは、片言の留学生の役ばかりなんだそうです。『ゴースト・イン・ザ・シェル』(*12)で主役のオーディションを受けたいなと思ったけど、そこではやっぱり、白人のA級女優スカーレット・ヨハンソンが主演に選ばれて。でも日本だと、そういうことは議論にならないんですね。「ハリウッド版なんだから、別によくない」みたいな。でもサンフランシスコの人たちは、猛抗議しているんですよね。

福田:この前、過去のハリウッド映画の主演男優と主演女優の年齢の比較記事があってね。『ダイ・ハード』を演じた時のブルース・ウィリスは40後半なの。で、奥さん役が27~28とか。ハンフリー・ボガードが『カサブランカ』に出た時は52で、イングリッド・バーグマンが27歳とかね。男優って一体何歳まで普通のボーイフレンドとかハズバンドの役できんのよっていう幅に対して、女優の年齢は短いっていう記事だったのね。だからハリウッドの覇権主義というか、駄目さみたいなものをNetflixが破壊するっていう点では痛快だね。

(*8)2006年にアメリカ合衆国のマイク・ジャッジ監督により製作されたブラック・コメディ。日本では劇場未公開で、2008年12月1日に20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパンがDVDで販売。

(*9)2018年のアメリカ合衆国のスーパーヒーロー映画。製作はマーベル・スタジオ、配給はウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ。監督はライアン・クーグラー。

(*10)2002年製作のドキュメンタリー映画。女優のロザンナ・アークエットの初監督作品。34人のハリウッド女優たちが登場、女優として、女として、母親としての自身の体験や悩みを語っていく。

(*11)かつては「ナード」とともに否定的な含みを持ったスラングだったが、インターネット社会の浸透とともに、コンピュータやインターネット技術に時間を費やし、深い知識を有する者を指すようになった。

(*12)2017年のアメリカ合衆国のSF映画。士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』の実写映画化で、ルパート・サンダースが監督を務めた。

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