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持フィルターバブルは ソーシャルメディアが生んだ弊害

ソーシャルメディア時代だからこそ、「極め人」より「フラクタル」 Talked.jp

草野:昨今のサンフランシスコのダイバーシティ議論については、ちょっと重箱の隅をつつき過ぎっていうくらい追求してきていて、複雑な気持ちもありますけど。

福田:「Me Too」(*13)に対してフランス女優たちが反論したっていうのは、面白かったけどね。

草野:面白かった。それを言っちゃキリがないっていうぐらい、追求するじゃないですか。

福田:米大統領選挙で、トランプを勝利に導いたとされる英国の選挙コンサルティング企業「ケンブリッジ・アナリティカ」が、Facebookの個人情報を不正利用したとされる問題で大炎上したんだよね。そのコンサル会社は、トランプの選挙対策本部のCEOを務めたスティーブン・バノン氏と組んで。大統領選では性格診断クイズのアプリを利用して、Facebookユーザー5000万人のデータを不正に収集して、少しずつ選挙民を洗脳していったっていう。そのプロセスについて書かれた記事を読んだら、かなり緻密な戦略だったんだよね。その性格診断クイズのアプリを26万人がダウンロードして、その友達の友達まで集めてして北米に絞ったら、5000万人の名簿が集まっちゃった。それをロンドンの会社に転売して、そこから徐々に「オバマって実はアフリカ生まれなんだぜ」って、ずっとターゲティング広告して洗脳していって。「ケンブリッジ・アナリティカは、けしからん」ということで、今はアカウント停止になっているけど。もしその戦略で大統領になったのだとしたら、ソーシャルメディアの勝利といえるよね。それが組織的に行われるような現実が起きているということが、相当SFだよね。

草野:どんどん管理社会で洗脳されやすくなっていて、フィルターバブル(*14)ですよね。

福田:週刊文春が、「週刊文春デジタル」(*15)の配信を始めた時、なんで週刊誌がデジタル配信やるのってみんな言っていたけど、それはNTTドコモのせいだと思っていて。dメニューとか定額制アプリのビジネスモデルは、「ここに例えば10億円の原資があるから、各コンテンツホルダーのダウンロード数 按分で払います」というものなんだよね。そのせいで、スキャンダリズムが横行するようになった。定額制の分配方式があんな風にならなかったら、「文集砲」ってここまでならなかったと思う。つまり、キャリアの定額制アプリサービスのせいで、スキャンダリズムは助長された。それ以外、週刊誌には増収の方法がないから。「じゃあ、テレビはなんで文春砲をネタにするの」っていうのは、今のテレビ局の経営状態で、歌舞伎町のラブホテル前に24時間も48時間も張り付ける人を雇えないよね。そこがうまく生態系として、変なエコシステムが出来ちゃったことが、さっきのフィルターバブルっぽいことを生んでいるのかもしれない。

草野:そうですね、ソーシャルメディアの代償だと思います。だから私たちの世代が、そういう意味ではソーシャルメディアからどんどん離れていこうとしているんですけど。ただ、すでにSNSが身に染みついちゃっているから、インスタもストーリー(*16)とかになったりとかして、結局やってしまっているという。

福田:でも若い世代の人たちが「Snapchat」のような過去ログが残らないライブサービスにいったことは大冒険だったよ。自然な流れだったのかもしれないけどね。大人には全然理解できなかったから。

草野:でも結局、インスタを使っている人がまだ多い段階で、ストーリーが出てきたから。カーダシアン姉妹の妹、カイリー・ジェンナー(*17)が、「スナップチャット消したわ」って言ったらもう大暴落して。

福田:あと、リアーナが「スナチャに掲載された広告で名誉を傷つけられた」って、ファンにアプリ削除を呼びかけたら、これまた大暴落。 アメリカのメッセンジャー「ワッツアップ」(Whatsapp)の元CEOが、SNSで「Facebookを削除せよ」って呼びかけて、ちょっと前にすごいバズったんだよね。この10年間のソーシャルメディアで言うと、日本で行ったらmixiとかGREEとかMobageとか、ソーシャルメディアとして機能してたものが、PCからガラケーになり、ガラケーからスマホになって、どんどん消えていっているので、ある意味LINEもFacebookも、同じ運命の途上にあるのかもしれない。

草野:『HyperNormalisation』(*18)っていうBBCのドキュメンタリーを去年見たんですけど、フィルターバブル的な話で、面白かったですよ。ちょっと陰謀論っぽいというか。「どうやってトランプは大統領になったのか」とか、ソーシャルメディアの陰謀みたいなものが描かれているんですけど。冒頭のシーンがまた怖くて。富裕層のアパートメントの前で、「この家に住みたいと思いますか」と。でも「あなたは一生住めません、なぜならこれは家ではなくて、金の塊だから」みたいなことから始まるんです。

福田:批判的な角度から入るんだね。

草野:「政治家の仕事は、政治をすることではありません。人を怒らせることです。ジャーナリストの仕事は、真実を伝えることではありません、真実は誰も知らないからです」って。さらに「あなたが務めている会社は、フェイクジョブです」とか。

福田:それも極端だね。

草野:話半分に聞いたとしても、結構面白いことが描かれていて。「あなたの本当の仕事はショッピングです」とかちょっと怖いんですけど、フィルターバブルの話も入っていて、面白かったです。

福田:現代はもちろん、情報が氾濫していると。ある調査では、10年間で受け取れる情報量が500倍になったんだって。今まで知らなかったことを知ろうと思えば知ることが出来るようになった時、その情報を取捨選択して、どう組み立てて思考するかっていうリテラシーを学習する教育が重要になってくるよね。ネットに対する知識以前に、長く生きていればいるほど、人類ってたくさん歴史があるじゃない。日本の教科書なんか、第1次世界大戦で終わっちゃうけど、教え初めが問題だと思うわけ。逆算して現代社会から、演繹的にやればいいわけじゃない。中国なんか、第2次世界大戦の前後しか教えないわけだから。 つまり根本的な問題は、教育と政治になっちゃう。それを、みんなの意識を高めるためにも、音楽とか映画とか、ドキュメンタリーでプロパガンダしていくのは悪くないと思うんですよね。大きな気付きのきっかけになるから。そういうのがないと、みんなただソーシャルゲームやって、この膨大な時間の暇つぶしをしちゃうよね。

草野:まさに小屋の中の鶏になっちゃいますね。私も一人の母親として、子どもにはいろんな世界を見せたいなと思います。

福田:そうだよね。体験がないと、鶏もフォアグラ状態になっちゃうと思う。

(*13)私(me)も(too)」を意味する英語にハッシュタグ(#)を付したSNS用語。 セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する際にソーシャル・ネットワーキング・サービスで使用される。

(*14)インターネットで、利用者が好ましいと思う情報ばかりが選択的に提示されてしまう現象。サーチエンジンなどの学習機能によって、利用者の望む情報が優先され、望まない情報から遠ざけられることにより、 自身の作り出したフィルターで泡(バブル)のように包まれて思想的に社会から孤立するさまを表す。米国の活動家イーライ=パリサーによる造語。

(*15)毎週木曜日週刊文春の発売時刻と同時に、本誌掲載のすべての特集記事をブログ&メールマガジン機能「ブロマガ」を使って配信するサービス。2014年からスタート。

(*16)すべてのフレンドが24時間だけ見ることのできる、複数のスナップのまとめ。ストーリーは時系列順になっており、古いものが時間切れで消えてしまっても、新しいものはまだ閲覧できる。

(*17)米国のファッションモデル、テレビタレント、女優。カーダシアン一家に密着したリアリティ番組『キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カーダシアンズ』への出演で知られる。

(*18)BBCによるドキュメンタリー作品。英国アカデミー章テレビ部門単発ドキュメンタリー章ノミネート作品。監督・脚本は、アダム・カーティス。日本未公開。

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