福田淳のメディア業界“カリスマ”対談シリーズ

いずれはスタートレックの世界が来るかも?

福田:そんな坂井さんが最近関心を持っているメディアやムーブメントは何ですか?

坂井:バイラルムービーですね。動画ってなんだかんだ言いながらも洗脳性をもっているじゃないですか。だからバイラルムービーはまさにバイラル(ウィルス性)の名の通り、ロジックや言語を超えて価値や意味を伝搬すると思いますね。 インターネットって最初はテキスト情報だったわけですよね。それが写真になって、動画になった。スマホの登場で24時間インターネットがポケットに入っている状況が生まれて、そこにSNSが登場し、社会が大きく変わっている。そうした環境が整った中ならば、この分野も次のパラダイムに行く気がしますね。

福田:僕は、バイラルムービーは企業にとってテレビCMで伝えきれないメッセージを長めに伝える一手法ではなくて、商品やサービスそのものを物語化(ストーリーテリング)させる新しいメディアと考えています。いまは、草創期で単にショッキングな映像手法やアマチュアリズムみたいな映像が多いですが、この分野に一流クリエイターが参加して、企業にも視聴者にも利益のある新たなエンターテイメント分野が創りだせると期待してます。 坂井さんはウェアラブルに関してはどうお考えになっているんでしょうか。

坂井:ウェアラブルはもちろん来ると思います。来ると思うんですけど、ただ端末がGoogle Glassのような眼鏡型がいいのか、iWatchのような腕時計型がいいのか、それとも第3の選択肢が現れるのか、まだわかりませんね。さらに進めば体内に埋め込むものも出てくるかもしれない。歯のインプラント並の負担のない技術で肉体に対する負荷が無ければ、すごく便利だったら人々はそれを受容するかもしれない。今はきっとみんな「それは嫌だ」って言うと思うけど、でも将来はわからない。 あと最近面白いのはね、プロダクトをFAXで転送できるんですよ。「ZEUS」(ゼウス)っていう3Dプリンターがあるんですけど、それにはスキャナーもついているんです。だからたとえば僕の家と福田さんの家にZEUSがあるとして、僕が「こんなカッコイイものを作ったんですよ」ってプロダクトをZEUSの中に入れておくと、何時間か後にはそれが福田さんの家のZEUSに入っている。これはFAXじゃないですか。

福田:モノのFAXですか。面白いですね。

坂井:スタートレックの世界ですよね。IPS細胞のようなものが応用できれば、いつかは、生命体も転送できるかもしれませんね。

ハードとソフトのデザインを同時に行う21世紀

福田:テクノロジーやメディアが日々進化し続けている昨今ですが、そういったものとデザインは、どのような関係にあるのでしょうか。

坂井:デザインというのは、基本的に技術やイノベーションがほぼ進化し終わった時に重要度が高まるっていうパターンなんですよね。たとえば自動車は100年間かけて、完成度はほぼ終点に行き着いてしまった。そうなると製品の違いはパッケージデザインの差異でしかなくなる。そこでデザインの重要度が増すんです。 そうした中、最近は、ソフトウェアとハードウェアのデザインを同時に行う社会になってきました。20世紀と21世紀のデザインで一番違うのはたぶんそこで、20世紀はなんだかんだ言いながら、フェラーリでさえパッケージデザインなんですよね。ウォークマンもパッケージデザインだった。つまりエンジニアが先に中身を作っちゃう。デザイナーのところに仕事が来た時にはハードウェアは出来上がっていて、そこに対してもう関与のしようがなかったんです。ところが今はそれを否定する考えが出てきて、takramの田川欣哉さん*3だとか、山中俊治さん*4だとか、チームラボの猪子さん*5もそうだと思うんだけど、ハードとソフト、両方一緒にデザインしようという動きが出てきてるんですよ。 特にソフトウェアやサービス側の人が、ハードウェアにものすごく関心を持っています。企業で言えばAmazonがKindleを作ったり、GoogleがGoogle Glassを作ったりだとか。何故そうなっているかというと、やはりAppleの成功があると思います。Appleが45兆円以上の時価総額にまで成長したのは、彼らがデザインやソフトウェアエンジニアリングを同時に行なったハードウェアを作ったからだと思うんですよね。それにアラン・ケイ*6さんなども「優れたソフトウェアエンジニアは必ずハードウェアを作りたがる」と言っています。

福田:「ハードウェアを作る」という必然性がコンテンツサイドやサービスサイドから出てきたと。