坂井:サービスサイドもそうだし、ユーザーサイドからも出てきた。つまりパッケージデザインというのは、ユーザーインターフェイス(以下UI)じゃないですか。ユーザーは製品の中身を開けて見るわけじゃなく、外側しか見られない。だからパッケージデザインをUIだと考えれば、ユーザーにとってもデザインは非常に大事なことなんです。
*3:田川欣哉氏。takram design engineering代表。名刺管理サービス「Eight」のデザインプロデュース等に携わる
*4:山中俊治氏。インダストリアルデザイナー。Suica自動改札機等の開発に携わる
*5:猪子寿之氏。産経新聞社のニュース・ブログポータル「iza!(イザ!)」の設計・開発等を担当。チームラボ(株)を立ち上げさまざまなサービス等を開発
*6:アラン・ケイ氏。パーソナルコンピュータという概念を提唱した“パーソナルコンピューティングの父”
日本の企業はまだパラレルにデザインできない
福田:デザインの役割が20世紀と21世紀で変わったというお話の中で思ったんですが、20世紀の大量消費時代は、製品がたくさん出て、それをリパッケージ・リニューアルして、いいタレント使ってテレビCMを打っていれば、それで商品は売れていました。 ところが21世紀の今は、それでは売れなくなった。これは何故なんでしょう? 多メディア化の影響でしょうか?
坂井:本質的には、やはり情報革命が起きている中で、プロダクトも先ほど言ったようなハードウェアエンジニアリングとデザインをパラレルにやった製品じゃないと、消費者に受け入れられなくなっているのではないでしょうか。iPhoneのようなApple製品がいい例です。 確かに、かつて人々はパッケージデザインだけで喜んでくれました。私が携わった日産のBe-1やパオ、フィガロなどはその典型です。あれって中身は日産マーチですからね。もちろんパッケージデザインの魅力が今後なくなるという意味ではないんですけど、それだけでは通用しなくなると思います。 でも、じゃあハードとソフトを同時にデザインしようとした時、日本の企業はデザイン担当の部署とエンジニアリングの部署が別々じゃないですか。だから僕の言っていることは成り立たないんですよね。
福田:組織的に成り立たないと。
坂井:「デザインエンジニアリング」といった部門が今後は企業に設けられないと成り立たないでしょうね。それを作らないとサバイブしないと思います。
福田:日本の企業はApple革命みたいなものを見て、坂井さんのおっしゃるような意識改革が起こっているんでしょうか。
坂井:残念ながら起きていないですね。どうしても日本の企業は、時代からずれて変革していくっていう悪い癖があります。でもシリコンバレーは違うんですよね。シリコンバレーでは僕が言ったようなことが実際に行われています。 ただ日本でも「ひとり家電メーカー」みたいな動きもありますけどね。「ファブレス」って考え方で、工場を持たないでモノを製造してしまう。実際僕の友人たちもやっていますね。
オンライン化するテレビに テレビ番組が映る必然性ない
福田:この雑誌(月刊「B-maga」)は多チャンネル事業者やケーブルテレビ事業者、メーカーの方が読者として多いのですが、彼らは90年代、テレビの未来は民放だけじゃなくて多チャンネル放送だということで、その時代は謳歌できたんですね。 ところがそこにネットがやってきて、テレビの時代はどうなるんだと、今、大きな課題を抱えています。坂井さんは、今後テレビはどうなっていくと思いますか。
坂井:まだテレビは現実的にはオフラインですよね。車なども今はオフラインですけど、だからこそGoogleなどから見ればそこにはオポチュニティがいっぱいあるわけです。 そんな風に見ているシリコンバレーと、ディフェンスに回っているテレビ業界。今はそのせめぎ合いが起きていると思うんですよね。
福田:家電メーカーでも、たとえばソニーで残っている製品ってほとんどがオンライン化したものですよね。 プレステ4だってオンライン化しているからこそ売れている。今後オンラインはモノづくりの1つの基準になり得るかもしれませんね。
坂井:なり得ます。というか、あらゆるものがオンラインになるだろうと僕らは考えています。特にObject to ObjectやInternet of Thingsという言い方をしていますが、モノとモノが通信する世界は今後大きく広がっていくでしょう。僕の仕事で言うと、杖と道路との通信なんてものもありますね。杖が道路のタイルに触れることでデータを読み込むんです。そういう形で数多くのモノに通信デバイスが入るでしょう。 テレビというハードウェアも今後はオンライン化が加速していくでしょう。スマートTV化というパラダイムシフトを迎える中で、デザインが果たす役割も大きいかもしれません。ちょうど箱型テレビが薄型化する時がそうだったようにね。実は今ちょっと面白い仕事をしていて、大型PC用なんですけど、チェスの駒のようなものを手元で動かしてPCをコントロールするUIを作っているんですよ。当然画面のデザインと連動したものです。テレビではないですけど、スマートTVはちょうどテレビとPCの中間になるでしょうから、そういったUIも活かせるかもしれません。 ただ、テレビがオンライン化する中で、ハードウェア的に核となる機能はディスプレイ機能だと思います。そこに映るのは決してテレビ局の番組だけではなく、ネットコンテンツでもいいし、鏡になってもいい。そういった何かを映すハードウェアとしてのテレビには今後も残っていく必然性があると思います。一方でテレビというサービスについて考えてみると、オンライン化した後に残るべき必然性ってあまりないんですよね。携帯電話でフィーチャーフォンがスマートフォンになった時に、「通話」が単なるワンアプリケーションになったような意味で、テレビというサービスも1つのアプリケーションでしかなくなる可能性もある。
福田:そこはテレビ局の人間が、どういうパースペクティブ(展望)を持ってテレビの未来を捉えているのか次第だと思うんですよね。最近よく「同じ映像コンテンツをテレビでも、スマホでも、タブレットでも見られますよ」というサービスを見ますが、あれはなんの生活提案にもなっていないと思うんです。 子どもがスマホで映像を見ながら家に帰ってきて、「お母さんただいまー」なんて言いながら、それをテレビの大画面に切り替える――そんなデモ映像を見ますけど、その未来図って本当に未来の生活と思えないんですよね。
キュレーション、ライブ性……テレビの目指す方向性
福田:少し話は変わりますが、近頃ではキュレーションメディアが、自分の関心のある情報を、あるアルゴリズムで集めてくれますよね。だから情報の摂取にあまり無駄がない。でもテレビや新聞だと、その人にとって見たい番組や読みたい記事は限られていますよね。 旧来の大手メディアはこの無駄をなくさないと、情報過多時代にはちょっと生き延びるのは苦しいのではないかと思うんですよ。
坂井:UI面から見ると、テレビのリモコンがUI開発やキュレーションの障壁になっていると思います。テレビのリモコンはテンキーで、そこにテレビ局が割り当てられている。だからあのテンキーそのものが、すでに利権ですよね。1つのボタンの権利が何百億円というお金になる。 でもApple TVのようなUIやキュレーションシステムでは、すべてのチャンネルが等しく選択可能となる。それは既得権を持つテレビ局自らが絶対に許さないですよ。
福田:視聴者がチャンネルや番組の選び方をカスタマイズできないのは、大きな課題ですね。逆にそれぞれの視聴者が興味のある分野をキュレーションしてくれるなら、見るチャンネルはキュレーションされた1チャンネルでいい。究極の多チャンネルは1チャンネルなのかもしれません。そういう意味では、テレビはまだサービス開発の余地がかなりあると思います。
坂井:ただそれについての僕の考えはちょっと違っていて。実は僕自身はテレビが大好きで、家では各部屋にテレビが置いてあって、パソコンの横にも小さなテレビを置いているくらいなんです。でもテレビをじっと見ているわけではなく、点けておいて横で流し見している感じ。テレビはシリアスなドキュメンタリーからナンセンスなバラエティ、オリンピックのようなスポーツまでいろいろなコンテンツが流れているから、それを通して社会の断片をリアルタイムに感じられるんですよ。 僕らの仕事はそういったものを感じていないとダメですからね。一見無駄があるかもしれないけど、これはテレビのすごい機能だと思うんです。
福田:確かにテレビにはそういったライブ性を追求する方向もありますね。以前(株)ニワンゴの杉本社長と対談した際、彼は「自分がテレビ局の幹部なら、編成を全部生放送にする」とおっしゃっていましたが、まさにそれは坂井さんのおっしゃるような感覚を求めてのことだと思います。今後テレビがオンライン化するにしても単にネット化するんじゃなくて、ちゃんと社会にオンする形になっていかないといけない。 それを目指すのであれば、たとえば坂井さんのような方にプランニングやデザインをお願いするのもいいと思うんです。成功体験を持っている人のデザイニングによって、サービスのグレードはもっと上がると思うんですよね。専門チャンネルやケーブルテレビの番組って、チャンネルや番組によってはひどくチープじゃないですか。
坂井:たまに我慢ならないチープさのものはありますね。テンプレートでもいいからすごく良いタイトルデザインを1つだけ作って、それを番組に合わせて変えていくだけでもだいぶ良くなると思います。
福田:我々のようなデザインやソーシャルメディアを得意とする人間が加わることで、今のテレビサービスに新たな可能性を加えられると思います。ご興味のある方はぜひご連絡ください……とセールスピッチをしたところで(笑)、対談を締めさせていただこうと思います。本日はどうもありがとうございました。
掲載/月刊『B-maga』最新号 4月号(4/10発行)