「渋谷で100人に聞いて1人も答えられない質問」
福田:たしかに、それは負の連鎖ですね。
コミンズ:はい。では、それをどうやって解決するのか。ひとつは居場所を作ることです。先述の李のNPOでやっていることでもあるのですが、14時から21時まで子どもたちを預かる居場所を提供することでの地域支援、とかですね。また同NPOでは、土曜日に地域の公民館や学校で大学生が無料で勉強を教えたりもしています。ボランティアは今まで1000人以上。子どもは、学校が終わってから来る子もいれば、学校に行かずに来る子もいます。生まれてこのかた、カップラーメンとバター醤油かけご飯しか食べたことのないような子もいて、カレーすら食べたことがない。だから、初めて居場所で出されたカレーを食べたときに吐いてしまうこともあって。
福田:えっ? それは、食べたことがないから、びっくりして?
コミンズ:そうです。そもそも味を知らないから、驚いて「これまずい!」ってなるんですよ。そういう子には、毎日少しずつ野菜を食べさせて、1年くらいかけて、普通の健康的な食事に慣らすんです。また、生活習慣を教えてもらってない子が本当に多いから、ちゃんと歯を磨けなかったり、お風呂の入り方を知らなかったり。普通の家庭なら当り前に身につくようなことですが、そういう何も知らない子たちを、少しずつ人間らしい生活に戻す、ということをやっていて。李は30歳になったばかりで、この国の首相とも面談するような人間ですが、そもそも彼も……
福田:彼も貧困だったってことね?
コミンズ氏:はい。彼は韓国人4世で、尼崎出身なのですが、さまざまな課題に直面している人が多く住むエリアで生まれ育ちました。でもすごい勉強をして、東大を出ました。福田:頑張ったんですね。
コミンズ:そうなんですよ。そんなバックグラウンドをもつ彼と仲良くなったのが4年前ぐらいなのですが、NPOは彼が東大にいる間に、すでに作られていました。名実ともに今では日本を代表するトップレベルのNPOで、素晴らしい活動をしているのに、正直申し上げると、NPOセクターや社会課題に関心がある人間以外は基本的に誰も知らないんですよ。福田さんも、初耳でしたよね?
福田:そうですね。
コミンズ:渋谷を歩いている100人に、「今日本は、7人に1人が貧困だということを知っている?」というアンケートを取ったら、きっと限りなくゼロに近いんじゃないかな。もしかしたら、1人いるかどうか。でもそれって、おかしい。じゃあ、事実をどうやって伝えていこうか……ということを考えたのですが、僕のやってきたことの背景に、メディアとエンタメとアートがあるので、「これしかないぞ!」と。バンクシーのようなアートの力で課題を浮き彫りにしたり、アカデミー賞を取った『ムーンライト』のような映画の力を使ったり。そういう力を通してやっていかないと、広く届かないんじゃないかと思って、会社を立ち上げました。社名の「SEAMES」は、SOCIALLY ENGAGED ART MEDIA ENTERTAINMENTの頭文字からです。