人が生きた証を声で残したい
福田:Voicyのこの先は、どういう展開を狙っていらっしゃるのでしょう?
緒方:長期的に言えば、世の中のどんなIOTからも音声が出てくるようになるでしょうね。そこにGAFAのOSもたぶん、入ってくるのでしょう。すると、お話したように、人が生活をしながら情報を得ることが当たり前になっていく。その時の情報背景のインフラになりたいと思っています。歩きながら、生活をしながら、ずっとVoicyのコンテンツを聞いて、閲覧が当たり前になっていく、というような。一方で話して活躍する人がむちゃくちゃ増えてきて、いろいろなコンテンツがアーカイブされていって…という未来予想図ですね。例えば、「松下幸之助さんの話が全部残っていたら聞いてみたい」とか。そうやって歴史上の人の話がすべて残っているプラットフォームになると、また面白くなると思うのです。
福田:あー! いいなあ!
緒方:これまでの社会の中で生きてきた人類は、もう何百億人に至るはずなんですよ。でも、その生きていた証がほぼ残っていないのです。それがすべて、このご時世からはずっと、喋ったものが残っていくようになる。そうしたら「あの何年前の、あの人が、ああいう思いをしていたところに会いにいこう」ということができるようになるわけです。
福田:面白い!「織田信長の声をAIで再現して」とかね。
緒方:今から残っていれば、AIで再現しなくても、例えば織田信長が明智光秀をこっぴどく叱っていた時の話だって、そのまま本人の声で残っている、みたいなことは全然、可能になるわけですよね。つまり人間が生み出した資産の中で、とても大きなものというのは、その思想から出てくる言語だと思うんです。でもそれは今までまったくアーカイブされていない。それが全部、資産になって金銭にかかってくると、爆発的な価値になるわけですよ。もちろん投資家に言わせたら、また「それをどうやってマネタイズして、どうやって食うのですか?」とか言うんですけど…。そんなものは、あとでいいのだ(笑)
福田:(頷く)スケールが刺さるところが大事。
緒方:なので僕らは今後、いろいろなものを音声でリデザインしていくということを考えています。例えば、個人が発信するのも個人でできるようになるし、今回この書籍でも、まえがきにもあとがきにも声が入っているんです。あとがきは1カ月ごとに更新していこうとしています。そうすることによって、本以外でも例えば電報が声になったり、遺言だって声で残っているようになると、揉め事も減るはずだよなぁ、と。
福田:さらにそれをブロックチェーンでしっかり管理するとかね。
緒方:はい。そういうふうに、社会を音声でコーティングすることによって、より豊かなものがボコボコ生まれてくるみたいな。まあちょっとディズニーランドではないですけどVoicyランドみたいに。それを作っていきたいと思っています。
福田:冒頭で、「僕はたまたま20世紀で、“観る”を開発してきた」と言ったのですけど、実際は20世紀の前後くらいの話なんですよ。多チャンネル化というのは、それまでは共存していたのです。AMラジオとか、FMとかSoundstreamなんていうのがありましてね。僕の生まれたのは1965年で、中学生になった70年代というのは超ラジオブームで、ウォークマンなんていう物もそのときに出てきました。そういうことで言うと、SF作家の小松左京の小説『物体O』がラジオドラマになったりして、すごかったんですよ。だから未だに、ネットの中にJet Streamのラジオドラマの音声がいっぱいアーカイブされていたりします。
因みにラジオドラマ『物体O』というのは、突然、都会が巨大な物体で覆われて出られなくなってしまうという話なのですけど映像では再現が無理なんです。音で聞くからすごい臨場感なんですね。だから緒方さんのご著書も、今日おっしゃっていることも、すごい近未来でワクワクしますね。「こんな社会があったらいいな」という興奮があるので。これが実現しないような21世紀だったら、ちょっと22世紀は来ないなっていうくらいエキサイティングな話でした。緒方:ありがとうございます。なので五感の1個である「聴く」を、丸取りしようと思っています。
福田:敵はいないでしょう?
緒方:SpotifyとYouTubeの牙城に乗り込んでいくというポジションに、どれだけなれるかというところですね。
福田:少なくともYouTubeのある種のコンテンツで、既にやっていることはVoicyですよね。だから、そういうことを取り込んでいった時のVoicyの更なる面白さというものは、すごいのではないですか。
緒方:そこを、どう挑戦していくかですね。あと、日本でもう少し、支援者を増やしていきたいですね。
福田:今日も刺激的なお話をたくさん、ありがとうございました。またぜひ、お話をお聞かせください。
緒方:こちらこそ、ありがとうございました。ぜひまた!
(了)
(前編へ)