映画はまず「脚本ありき」
福田:さて、話を現代に戻しましょう。今回の映画『Ribbon』のきっかけをお話すると、2020年秋にのんが出演する予定だった舞台がコロナでキャンセルになったことでした。舞台というのは長丁場なので、稽古と本番を入れると1か月以上空くことになる。彼女はずっと多忙でしたから、「ちょっとお休みしたらどう?」と言ったのですが、「自主映画を撮りたいんです!!」と即答で返ってきました。宮川さんも僕も、学生時代からずっと「映画を撮りたい」という気持ちがあるわけですけど、やっぱりのんの中にも、同じ想いがあったんですね。
宮川:福田さんものんさんの、そういうクリエイティブな琴線に触れた、と。
福田:ええ。で、「じゃあ、脚本を見せて」と言ったわけです。僕のもとには毎月さまざまな方が映画の企画を持ってこられるのですけれども、「こういう座組で、こういう配給会社と組んで、キャストはこんなイメージで」といったお話がほとんどなんです。でも、僕がいつも聞く質問は1つで、「どんな脚本ですか?」ということだけなんですよ。だって設計図がないのに家を建てろと言われても、どんな家にしたいのか、わからないじゃないですか。なのでとにかく、「設計図が見たい。脚本が欲しい」と。
宮川:わかります。そうですよね。
福田:例えば米ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(コロンビア映画社)には、スタジオの中に脚本家専用のオフィスがバーッと並んでいるんです。つまり、ハリウッドスタジオの幹部をはじめ、世界中で映像ビジネスをしている人にとっては、脚本が一番大事だからです。しかもスタジオの場合、コントロール権がスタジオ側にあるという環境が、日本とは大きく違う。たとえば「スパイダーマン」を製作するのに、「監督はサム・ライミがいいな」とか、「じゃあ脚本は、今度はこの人に書かせよう!」とか、いわゆるアーティストチームのようになっているんですね。一方で日本では、プロデューサーが有名な人だからあまり逆らうことはできないとか、座付きの脚本家がいるから……みたいなことが往々にしてあるので、脚本の手直しもあまりできない。
つまり「どんな家を建てようか」というときに、自由に作られた脚本、自由に考えられたキャスティングという、ごく当たり前の設計図が、日本のエンターテインメントでは非常に難しいわけです。そのことが僕はよくわかっているので、のんには「しっかりとした脚本を書いてください」と伝えました。そうしたら最初は短編だったのが、3日後くらいには2時間をゆうに超えるシナリオが出来上がってきて、それが面白かったので素晴らしいな!と。これならば、自分がお金を集めて実現させたい、と思ったんです。
宮川:光栄なことに、それで自分にお声かけをいただきました。ご紹介いただいたように福田さんは学生時代からの先輩なので、先輩が言われることはもう絶対にやる(笑) 非常に文化的な話をしているようでいて、根っこにあるのはじつは体育会系ですから。「福田さんからのオファー」っていったら、それはもう「すぐやります!」ってなりますね。
福田:(笑)今も日々お付き合いはあるんですけど、のんの脚本を読んだときに宮川さんの映画愛を思い出しました。宮川さんは、カンヌ映画祭の受賞作品をすべて、年代別に暗記しているような方なんですよ。だからすぐに彼女の脚本を送ったら、これまたものすごく早いリアクションでお返事を下さった。「あぁ、宮川さんは20代のときと変わらない感性で仕事をやっておられるんだなぁ」と改めて思ったので、ぜひ一緒にやりたい、となりました。