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スピードを落とす日本の「完璧主義」

中国テックビジネスのスペシャリストに聞くAI+アナログの最適解とは?(後編)  Talked.jp

福田:深センのエネルギーは、すごいですよね。

成嶋:僕がいたときの話ですが、深センのデパートでは、いわゆるセルフレジみたいのはあるんですけど、かごに入れて買うときに、スマホを読ませるだけなんです。そうすると、当時のRFID*2)ではかごの下からシャッって袋が出てきて、かごごと持って帰れるんです。わずか2~3秒です。それで、かご代金がデポジットされているので、また来店動機にもなるし、店にかごを持って帰ってくるじゃないですか。そうするとお金が戻るしくみになっていて、絶対こっちのほうが頭いいな、と思っていました。日本だとレジで商品バーコードを読んで、別のかごに入れて、さらにそれを袋にしまいますよね。これってかるく5~7分くらいかかりますね。

福田:そもそも日本って、自動レジよりも、人のほうに長く並んで平気な人たちですからね。そもそもせっかちじゃないという。

成嶋:そうですよね。「今まで通りでいいのに、なんでこんな機械入れたの?」みたいな感じですよね。

福田:昨日、スーパーの支払いで2番目に並んでいたんですよね。で、その前は若い女性だったのに、小銭をずっと財布の中から探していて、全然順番がこなくて。思わず、(こんな若い人なのに、何があったんだ?)と思って、頭の中でわあって叫んでました(笑)

成嶋:変わりたくない、みたいな人もいるんですよね。安心しているとか。

福田:2020年に習近平が「動画での大食いの投稿は禁止」と発表したときに、北京のレストランの映像を見ていたら、「メニューは大中小あります。選んだのに余ったら罰金だから」って。罰金は店の側だったのに、そこをちゃんとお客さんに転嫁しているのがすごいと思いました。そうするとお客も、食べられる分量しか頼まないし。あれから北京も変わったでしょうね。

成嶋:中国が大ざっぱという意味では、人民IDもそうなんですよ。 人民IDは18桁の番号で、最初の6桁が戸籍の郵便番号みたいなもの、次の8桁が生年月日、残りの4桁が特定のルールに従ったユニークの番号です。日本もマイナンバーカードで問題になっているじゃないですか。それが中国は、日本より簡単に類推できちゃう番号なんですよ。

福田:それを組み合わせたとき、無限になるんでしょうか。

成嶋:いや、無限ではないですが重複もほぼないと思いますよ。攻撃は最大の防御なりで、偽造などをしたら重い罰則でつぶしにいくんです。だから攻撃は強いけど、意外と守りは脆弱なのかもです。そういうアンバランスさがありますね。日本はそこを完璧主義でやろうとするんですけど。でも4桁だったら、「まぁやるか」ってなるじゃないですか。なりません?

福田:なりますね。

成嶋:自転車の錠前みたいな、「9999」みたいなやつだったら、やろうとするじゃないですか。でも、6桁ぐらいあったらやらないじゃないですか。だからセキュリティーは日本より全然弱いんですけど、もう関係ないというか。

福田:それに日本は、マイナンバーカードで問題が起きた件数といっても、全体からみたら、そう大した数じゃないじゃないですか。あれだけのことをやろうとして、複雑な丁目番地の表記とか、「字」があるとかないとかアルファベットより数段複雑な要素を考えたら、むっちゃ優秀な出来高ですよ。むしろ、間違いの数があんな少ない数で済んでいるのかって思いました。

成嶋:完璧主義。

福田:ですよね。子どもたちも苦しくもなりますよ。

成嶋:出世してうまくやっても、妬まれるといいます。私の友人の会社では、店長クラスの人が、結構辞めちゃうらしいです。聞くと、「残業も1分単位で出ているし、うちの会社はホワイトだと思います」と。「でも、先輩を見ていると、自分の数年後、これぐらいの収入でこうなんだなって分かっちゃうんだ」って言うんですよ。「それなら仕事はほどほどにして、あとは自分の時間を楽しんだほうがいいなってなります」と言っていて。その通りだなと思いました。

福田:間違いない。その通りなのに、そうする人は実際、少なくないですか。

成嶋:いやそうやって、会社の中で割り切っているんですよ。だからみんな、ブレーキ踏みながらアクセルを踏んでいるから…タイヤは磨り減るわりに、スピードは出ない、みたいな感じですよね。

福田:分かりやすいです。

*2)バーコードではなく、電波を用いてICタグのデータを非接触で読み書きするシステム

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