“Content is King!”で生きてきた コンテンツ研究会講演@青山学院大学【前編】

アニマックスチャンネルの成功と転機

現業のソーシャルメディアや、スマホコンテンツ制作について語る前に、この「アニマックスチャンネル」のプロセスについて、少しお話しさせてください。
当時スカパー衛星放送では、「キッズステーション」や「カートゥンネットワーク」など、すでに100を超えるアニメのチャンネルがあり「ソニーが今更アニメチャンネルをやったってダメだよ」といわれていました。でも我々の方針は、「ハリウッドの会社ではあるけれども、ハリウッドのコンテンツは1本も入れない世界に通じる日本のアニメチャンネルを作りたい」というものでした。ハリウッドのコンテンツなら売るほどあったわけですが、日本のアニメ番組は全くありません。そこでライブラリーをもつパートナー企業を探しました。東映アニメーション、サンライズ、日本アドシステム、今のTMS(東京ムービー新社)と、彼らが保有するライブラリーの長期にわたる包括契約を結んで株主になっていただきました。結果この4社で当時の日本のアニメライブラリーの、7割を掌握することができた。それが、「アニマックス」の成功要因だったと思います。

「君は新規事業の責任者として、次は何をやるの」と問われたのが、2000年頃です。21世紀を前にして、ハリウッドが考えるようなビデオ・オン・デマンドやネットフリックス(*1)のようなインフラがまだまだ普及していない日本では、1999年4月にNTTdocomoがスタートさせたiモードの有料サービスが空前のブームでした。『キャラッパ』という、(株)バンダイが運営する「待ち受け画像」の有料配信コンテンツは、それこそ『ゴジラ』や『ドラえもん』、『仮面ライダー』など、ありとあらゆる待ち受け画像を配信して、150億円もの年商を得ていました。「ここに参入しよう」といったときは、既にもう日本の今の映画業界と同じ「邦高洋低」現象が起こっていて、ハリウッドものよりも日本のアニメキャラクターの人気のほうが高かった。それで日本のキャラクター・アニメコンテンツの配信を始めた。でも会社から「君はハリウッドのコンテンツを売っとらんね」という話になり。「(バレたか)じゃあ辞めます」と(笑)。結果「ソニー・ピクチャーズエンターテイメント」は辞めて、40歳のときに、今の「ソニー・デジタルエンタテインメント」という会社を立ち上げることになりました。今は、ソーシャルマーケティングを活用した企業のブランディングの仕事が主になっています。

先のことよりも、
「今、起こっていることはなにか」を考える

社名を聞くと、「ソニーの戦略子会社ですか」と聞かれることが多いのですが、設立当初からそんなことはまったくなく、投資していただいてから今日に至るまで、一度も経営に口出しをされたことはありません。立ち上げの際はソニーからベンチャー投資をしていただいたので、「ソニーからの人材は受け入れない」「上場しない」「3カ年計画は作らない」と宣言したところ、前職のキャリアもあってか、それらはすべて認められました。
長期計画を立てないっていうのは、大企業にいたので、そんなことばかりやっていたんですね。あるとき、当時の社長に言ったんです。「3年前に考えた“今”は、“今”でしょうか」と。「さぁ、3カ年計画を立てましょう」といったところで、3年前に考えたことが、今本当にそうなっているのか、企業はそんなこと、いちいち検証していません。それなのに3年先のことを考えたところで、変化の激しいこの業界ではそもそも意味がない。ならばいっそ、われわれは考古学者になるべきで、今ある状況が何なのか、分析することのほうが大事だと思うんです。考古学者は、太古の石の中から未来を見る。そういうやり方をすべきだと思うので、僕は先のことは一切考えません。でもその代わり、今起きていることはどういうことか、毎日必ず考えています。

(*1)ネットフリックス
全世界で6,560万人(2015年6月時点)の加入者を持つ、映像ストリーミング配信サービス。好きな時・好きな場所・好きな端末で世界中のドラマを視聴できる。