メデイアの本質は、
「プラットホーム」ではなく「コンテンツ」
そんな順調な日々も、突然終わりを告げました。このときはさすがに、会社は潰れるかと思いましたね。何が来たかというと、東日本大震災です。震災が来て、広告クライアントがみんな降りました。まず、従来のガラケー携帯が通じなかった。そのときの教訓でその後立ち上がったのが韓国のネイバー社が考えたLINE。メディア論的には、この時代のことはまだ論じられていませんが、僕は明らかに、スマホ世代の芽生えというか、日本のメディアのターニングポイントは、2011年3月11日であったと確信しています。
この事態によって、多くのものが変わりました。まず、黒船Appleが日本のキャリアの牙城を崩壊させた。それまでは月額課金で、親にもバレずに電話料金と一緒に着メロをエンジョイしていた若者が、震災以降は携帯からスマホに移行して、iPhoneの普及が止まらなくなった。そのときに、いろんなIT企業の同僚、社長、後輩、みんな僕に言ったんです。「福田さん、心配することないよ。携帯からスマホになっても、dメニュー(*6)っていうdocomoのポータルサイトがあるらしいから大丈夫だよ」と。みんな、月額課金の甘い仕組みの中から、逃れることができなかったんですね。ところが、iモードで成功したコンテンツで、何を思い出しますか。占い、着メロ、いろいろありますけども、ある上場企業は破産して、当時の会長も社長も牢屋にいます。iモードが生み出したコンテンツの世界、そこから上場した会社、殆どなくなったんです。その後、スマホ時代の到来になるわけですが、僕はこのとき、変動の激しいネット業界で「プラットホーム」に依存するのは非常に危険だと思いました。なぜなら、8年前に話題になったものに、「ミクシィ」がありますが、「ミクシィやってないと、一人前じゃないぜ」と言っていたあのコミュニティは、一体どこにいったんでしょうか。「電通の時価総額を抜いた」と言われた「グリー」は今、毎月赤字です。「DeNA」は稼いだお金を幅広く投資したので、会社としては存続して球団まで持っていますが、本来のコミュニティはもはや存在感がありません。
老舗の大手クライアントがソーシャルメディアマーケティングをやりたくない理由の中に、「この業界は10年もたないじゃないか」というのがありますが、僕がずっと関わって、触れてきたものは、徹頭徹尾「コンテンツ」だった。たとえば今でもCMに使われる『巨人の星』は、半世紀以上前に作られたものですし、楳図かずおのホラー漫画がなくなることはない。『ゲゲゲの鬼太郎』はすでに7回も映像化されていて、うち2回は実写化です。これはもう、僕らからみると永久不滅のアートなんですね。映画会社的な考えでいうならば、明日『アラビアのロレンス』を見た14歳の少年が、映画ファンになる可能性は大いにある。つまり、「良質なコンテンツは、長く愛される」という本質が不変であるかぎり、いい作品を作る、いいコンテンツを作ることが、いちばんのビジネスモデルではないかと思うんです。その本質は、前述した「長期計画は立てない、今のことだけ考える」という、当社のコンセプトにも通じています。
(*6)dメニュー
2011年11月にサービス開始された、NTTdocomo社が提供するスマートフォン向けプラットフォーム。ショッピングやゲーム、エンタメなど、様々なサービスを提供。