漫画作品のデジタル化権獲得をめぐり、
大手出版社から出入り禁止に
iモード以降も、ネットコンテンツはどんどん変遷を遂げていきました。2004年にauがdocomoに勝つために、定額制のブロードバンドを打ち出し、『着うた』攻勢が始まります。また、電子書籍の時代到来ということで、「ソニー参入参画作品」として、出版社を介さずに、日本の著名な漫画やアニメの109万ページのデジタル化権を一挙に買いました。当社の初代顧問であり、伝説の編集者として知られる内田勝さん(少年マガジンの天才編集長)に相談して、手塚治虫先生のように亡くなられた作家の作品も含め、全部の原著作権を持っておられる先生のところを回って、「私に権利を貸してください」とお願いし獲得したわけです。これがどういうわけだか読売新聞のすっぱ抜かれ、1面に載ったとき、大手出版社から出入り禁止になるんですね。ある出版社の、漫画担当の専務さんに呼び出されました。呼び出されるということは「行って怒られる」ということなので、僕なりの秘策を持って会いに行きました。「君は、うちの編集者が何十年もかけて築き上げた先生との関係を盗んだんだよ。要するに泥棒なんだよ」と、こう言われたんですね。そこで、僕は言いました。「専務、この作家の漫画作品を僕は子どものときに、いつも読んでいましたよ。でも今読もうと思っても書店にはありません。出版社はいつも、新しい漫画家しか相手にしてない。御社が出版されている当該先生の作品は8割が絶版になっています。これで本当に、作家との関係を大事にしていると言えるんでしょうか。かつて作家を育てたのはたしかに編集者かもしれませんけれども、デジタル時代は私が守ります」と。そんなことを言うと、大体、出入り禁止になるわけなんですけども、その出版社には5年ぐらい、本当に入れませんでした(笑)。
携帯という子どものメデイアから、
大人のエンターテインメント作品を生み出す面白さ
2006年には携帯小説ブームもやってきました。『Deep Love』(*2)という作品では、普通の高校生作家に印税が1000万円ぐらい入り、社会現象にもなりました。このときも「どういうことだろう?」と、何が起こっているのか、知りたくなりました。携帯小説ブームをつくった「魔法のiランド」(*3)というコミニティサイトの社長いわく、「福田さん、すごいでしょう。C to Cで、素晴らしい小説は出来るんです。これは全部システムで出来上がっているので、もう編集者は要らないですよ」と。前述の出版社のときも、僕は編集者を全否定したわけではなく、「大切にしていない」と言ったのであって、システムで選んだ小説が面白いかどうかについては、非常に疑問視したわけです。「じゃあ300位ぐらいにサントリーミステリー大賞を取るような才能の作家がいたとしたら、どうやって彼らの作品をピックアップできるのでしょうか」と聞いたところ。「いや、そんなのは古くて、システムが選ぶんです」と言われたんですね。
携帯小説では、17年しか生きていない高校生が自分の自伝を書くわけですから、大抵の結末は、がんか交通事故しかない。ただ、そのこと自体はめずらしいことではなくて、僕の時代でいえば、山口百恵の「赤いシリーズ」も必ずそういう結末でした。「ティーンズノベル」という方向性もありますが、僕は本格作品が欲しかった。もしかしたら、大人が誰も相手にしていないこのiモードから、芥川賞作家が出るかもしれないと考えて、「ケータイ文学賞」(*4)というものを創設し、1000万ダウンロードの作品や、後に書籍化されたものを含め、たくさんの作品を生み出しました。その代表例が『浅田家』(*5)という写真集です。浅田さんという家族が、消防士など、一家でいろいろなコスプレをするというコンセプトの写真集。無料で読める携帯小説とはちょっと違うビジネスモデルだったため、P&Gの広告サポートでネット配信をして、『浅田家』は赤々舎という出版社から書籍化されましたし。その写真集がその後、写真業界の芥川賞といわれる木村伊兵衛賞をとったんですね。こういうことが起きたり、『マスタード・チョコレート』(著者:冬川智子)を出版したときは、文化庁のメディア芸術祭で新人賞を取った。新事業に関わっていたので、4媒体からヒットが出るのは当たり前といえば当たり前なんですけども、僕がやりたかったのは、「誰も認知していない携帯という子ども発信メディアから、大人の成熟した評価が得られる」ということだったと思います。これはむきになってやったこともあって成功しました。
(*2)Deep Love
ケータイ小説の生みの親で知られるYoshi氏が2000年10月に個人サイトで発表した小説シリーズ。後に商業出版物がシリーズ270万部の大ヒットに。
(*3)魔法のiランド
1999年にサービスを開始。携帯電話向けの無料ホームページ作成プラットフォーム。ケータイ小説の草分け、最大手としても知られ、100万部を超えるヒット作品を多数生み出した。
(*4)ケータイ文学賞
(株)ソニー・デジタルエンタテインメントと、(株)オンブックが共同で主催したケータイ文学賞。(2006年12月 第1回ケータイ文学賞)ケータイで手軽に読めることを目的に、500文字から応募できるとあって、730作品が集まった。
(*5)浅田家
写真家・浅田政志(1979年生まれ、三重県出身)の代表作。実際の浅田自身の家族を被写体にして、ラーメン屋や消防団、極道などフィクションの設定での家族写真を撮影した。第34回 木村伊兵衛写真賞(2008年度)受賞。