『ソーシャルデザイン入門』 電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表並河進氏×実業家 福田淳の対談@成蹊大学【後編】

今求められる、広告代理店の新しいモデルとは

福田:アメリカでコンサルティングファームの広告売り上げがすごく増えているっていうんですよ。経営コンサルタントをやっているデトロイトコンサルティング社(Digital Agency Detroit Inc)が設立4年目にして年商15億ドルですよ。100円換算で150億円の年商を上げたといったら、これは大したものだと思うんです。なぜそれができるのかというと、クライアントに「この会社はどういう組織で、何をミッションとしてやっているんですか」っていう経営者の内側から入っているんですね。単に広告費のコントロールっていうレベルではなく、全体の中で、彼らは経営側から見ている。そのやり方って、並河さんがやってらっしゃる方法にとても近いと思うんです。商品やサービスだけからではなく、社会から見た時に発想をデザインしたら、そうなっていくんじゃないかなと思いました。
従来の広告会社のイメージって、「売れるか売れないか」で、「役に立つとか立たないかは俺たち知らないよ」っていう立場になってしまっていたから、コンサルティング会社に抜かされるようなことになってるんじゃないかと思ったんですけどね。

並河:よくわかります。電通でも、そういうコンサルティング的な仕事は増えています。経営のトップの方とお会いして話を聞くときに、最初に困っていることをうかがうと、広告は実は困っていないケースもあるんですよ、実は経営が大変だとか、実は売り場に人が来てくれなくて困っているとか。経営者の中で広告に関しては、頭の中の10分の1から5分の1ぐらいだったりするんですが、でもそれ以外のことを含めて話をしていくと、売り場にだってアイデアを入れられるし、他の所にもアイデアを入れられるし、さらに言うと、経営者は会社の中のことだけをグッと考えているけれども、でも会社以外の社会の話とか、あるいは他の会社のアイデアとか、そういうものと結ぶことでもっともっと新しく面白くなる可能性もあって。

福田:広告代理店の方たちは、そういう広告のありようにおける変化を、どのようにとらえていらっしゃるんでしょうか。立ち入った質問になってしまいますけど。

並河:これまでは、いわゆるメディアのコミッションという手数料でビジネスが成立していましたけれど、マスメディアの手数料とインターネットの手数料は全然パーセンテージが違うので、このままインターネットにどんどん移行していくと利益が減っていくので。それをどういうふうにしてやっていくのか、というところが、一般に言われている広告会社が直面している問題ですよね。ただ、どうしても話す大前提として、「どうやって生き残っていこうか」とか、「どうやって売り上げをキープしようか」みたいな話になるんですけど、もう少し視野を広くしていくと、そもそもどういう存在が必要とされているんだろうかということに行き着くと思うんです。

福田:そうですね。そこですね。

並河:そこがすごく大事で。日本でテレビ放送が始まった時に、CMっていう仕組みがあって、そこを企業が支えることで日本中でテレビ放送が無料で見られるという、社会にとってみんなが喜ぶ仕組みをつくったというところに、広告会社の存在意義があったわけですよね。でもそこがインターネットによって変わっていくとなったときに、もう一度冷静になって、自社の存在意義を見つめていくところから描かなきゃいけないなと思っています。

福田:さっきのNPOの話も、数がいっぱいあって、全部に一つ一つデザイニングだ、なんだと絡んでいたらもう大変だから、「みんなにコピーの書き方を教えましょう」っていうふうに、だんだん合理的になるわけじゃないですか。そう考えると広告代理店ほど何を代理しているのか分からなくなりますよね。多メディア時代になると、いろいろなクリエイティブハウスに、ソーシャルデザインを教えていったほうが。もっと社会が良くなる可能性がありますよね。広告代理店の人たちも自分たちの仕事を再定義して、というと生意気ですけども、ソーシャルメディアの使い方をもっと広げていくべきなのかもしれません。

並河:そうですね。広告会社の将来や、広告の将来は、パッと結論が出るものではなくて、本当に模索していますね、今。