おっちゃんたちを応援する「第二の矢」を考えよう!
福田:そうすると、事業の観点から見ても、多用な人材を活用しようというダイバーシティ的な考えが必要ですよね。ちょっと話が逸れるかもしれませんが、先日知人と、「なぜ村上春樹はノーベル賞を取れないのか」っていう雑談になって、「ダイバーシティの視点がないからじゃないか」という仮説になったんです。村上春樹の小説の共通した視点は、「自分と同年代」なんですよ。おそらくノーベル賞の評価基準の中には、「多様な自分」という要素が入っているんじゃないかと。ガルシア・マルケスの『百年の孤独』のような、インディオの子孫から描いたおじいさんの話しとか、そういう多角的な視点が必要なんじゃないか、という結論になりました。
話を戻すと事業でも同様なんですよね。よく「三つの矢を持て」と言いますけども、「三つ矢を持つと、1個は駄目でも、残りの2つが助けてくれる」という。その考えでいうと、メインの事業が『HUBchari』ということは、あと2つ、べつのコンテンツの必要があるのかもしれませんね。
川口:NPOは、「五つ財源がある」と言われていますね。一つが事業収入で、二つ目が行政委託。そして助成金、単発の寄付、寄付会員。この五つをバランスよく組み立てなさいという話なんですが、『Homedoor』は現状、事業収益が高くて、寄付が圧倒的に弱い。
福田:先日、クリエイティブディレクターの並河進さんが、学生への講演会で、お金をテーマに面白いことをおっしゃっていました。「お金を名詞として捉えるか、動詞として捉えるか。多くの人は名詞に捉えるから、それが目的になってしまう。でも動詞として捉えると、ストックさせないでフローさせる。それで生かすのがお金だと思う」という話で、なるほどなと思ったんですよ。
つまりさっきの三つの矢っていうのは、コンテンツなんですよね。そこに共鳴した人が寄付をするとか、そこで働いて利益を得るとか、行政から助成金をもらうというのは、その結果の話であって。
川口:そうですね。『HUBchari』のほかに、柱になる事業があればと思います。今検討しているのは、おっちゃんたちと、デリバリーの仕事ができないかなって最近は考えています。
福田:そのデリバリーは、B to Bではなくて、C to Cですよね。C to Cモデルはお客さんに理解してもらわないといけないから、オペレーションコストもさることながら、マーケティングに掛かってきますよね。考え方はいろいろなんですけども、僕は新規事業をやるときには、あまりお金のことを考えないほうがいいと思っています。つまり「社会の役に立つ」というストーリーがピンときたら、そこで組み立てればいいと思うんです。
たとえば都内の某弁当屋のケースなんですけど、そこ、全然美味しくないんですよ。でも安くてメニューも多いから、みんな頼んでいて。ランチのデリバリーで1000食作って、4食しか余らないそうで。
川口:へえ、すごいですね。
福田:つまり、B to Bで成功して、企業に入り込んでいるわけですよね。一般の人は買えなくて、販売先は企業だけ。でも川口さんの考えるデリバリーは、働くおっちゃんの安定性の課題があって、かつ、提供する食をつくる店を開拓して、さらに売り先を開拓するということですか? そうなったときに、どこに集中するのが、事業として柱になると思いますか。
川口:食をつくる店かな、と。
福田:ですよね。その店=コンテンツですよね。じゃあ販売先、届ける先は、個人と団体、どっちになるんでしょう?
川口:イメージしていたのは個人ですね。オンデマンド・デリバリーとしていろいろ調べてみたんですが、やっぱり大体が配達先は企業に絞って弁当を運ぶモデルが多くて、そっちのほうがビジネスになるのは目に見えているなというのはあったんですけども。でも、ふつうに弁当がデリバリーで来ても、とくに楽しくないなというのは感じたんですよね。あまり想像の域を超えてないというか。
福田:そこで特徴が出せるか出せないか、ちょっとお互いの宿題にして考えてみましょうね。
付随して考えるべき要素は、「企業に売ったほうが、マーケティングコストが安い」。「個人で売ったら個人に周知してもらわないといけないぶん、マーケティングコストが掛かる」。でも、リスクが多いほうが価値や報酬があるかもしれない。つまり、これが事業モデルの基本概念なんですよね。個人相手であるならアプリがいいし、企業相手となると、ウェブサイトでいいですよね。これでインフラのコストも多少は変わってくると思います。でも企業に売るとなると、営業をどうするなどの問題は個人相手よりもスキルが必要になるかもしれないけれど、収益基盤は中期的には企業のほうが高い。だから、企業向けに参入してるところが多いわけですよね。
ただそこで肝になってくるのは、「ホームレスのおっちゃんがデリバリーをする」という川口さんにしか出来ないユニークなブランディングですね。
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