『ホームレス支援の新しいカタチ~誰にでもやり直せる権利がある』 ホームレス支援団体『Homedoor』川口加奈氏×実業家 福田淳の対談【後編】

ブランディングの「肝」は、みんなが納得する「ストーリー」

福田:今はどういうブランドにしたいですか? すごい安い定食屋なんだけども、「デリバリーなんかやってないわ」っていうところをあえて、おっちゃんたちが届けますよ、というストーリーかな。

川口:やりたいのは安いのから、中級ぐらいだったんですけれど。でも、高級メニューじゃないと、回らないのかなっていう気もしたところもあって。

福田:いや、さっきも少し言ったけど、「回る回らない」は最初はどうでもいいんですよね。本当にそれが新しくて、敵が参入してこなくて、ストーリーとしてすっきり伝わりやすければいいので。つまり50代のおっちゃんに、何をデリバリーしてもらったら、みんなが満足感を得るのかっていうストーリー。

川口:それでいうと、安価なメニューかなっていう気はしますね。

福田:そうすると今、随分難しい選択をしていると思う。企業相手ではなくて、できるだけ個人で、低廉な価格のもので、なおかつ手数料を取って始めないといけない。でも「一番硬い土」っていうのは、一番ホワイトスペース(事業機会)があるかもしれないですね。

川口:「硬い土」。

福田:そう、「硬い土」(ブルーオーシャン)。反対に「柔らかい土」(レッドオーシャン)っていうのは、普通にどこかのチェーンや保険会社と提携して、「ホームレスの人の就労支援ですから、よろしくお願いします」と、どこか企業の社長に賛同してもらえたら、大きな規模で始められるかもしれない。でも、今川口さんがイメージしているのはそういう方向じゃなくて、一店一店セレクトして、飲食店側と話をして、「こんなことやらしてください、実験的に」という感じですよね。

川口:そうですね、うん。

福田:そのときに判断基軸になるのは、最初で話した「なぜこの事業をやるのか」というところに立ち戻るわけですよね。理財が高いし、超高級メニューをデリバリーするんだったら、もともと経済合理性を追求しているわけで、法人営業をやりましょうという話だけど、そうじゃないから。

川口:そうですね。なんか、勘でしかなかったんですよね。

福田:その勘をより意識化していこうというのが新規事業の大事な部分なんで、迷ってもらって全然構わないんですよ。

川口:本当に理財を追及して、経営的な柱になる事業を始めたかったんですけども、考えていくうちに「こっちのほうが楽しいかな」と思って。

福田:「楽しいかな」というのは、こういうやり方のほうが、世の中に受け入れられるかなって意味で?

川口:お客さんにとって新しい習慣をつくれるというか、今までになかった選択肢が増えたら楽しいかな、と。オフィスに弁当を宅配するっていうのは普通にありますけども、そうじゃない何かを提供したときの化学反応を見てみたかったのかもしれません。

福田:そこですよね。このブランドは、徹頭徹尾そこにあると僕も思います。だから、ほかに普通にあるデリバリーと差別化するためには、普段はデリバリーをしていない店を落とさないと駄目なんじゃないかな?「いつもはデリバリーしていないお店のものを届けます。なぜなら仕組みとして、就労支援につながるので、手数料をお願いします」というような、内側の事情まで全部オープンに見せたブランドがいいと思います。そして、それに共鳴してくれる飲食店でないと。経済合理性ばかり追及する提携をつくってしまったら、多分川口さんの目指しているストーリーは成り立たないですよ。だから、何らかの理由でチェーン展開してないとか、個人に近いかたちの飲食店だとか。
あくまで個人なんだけども、できるだけ大きなビルの中で、個人が頼みやすいものにしたほうがいいですよね。たとえば大きなオフィスビルにあるレストランで、いつも混んでいて、値段の割にはあまり美味しくなくて嫌だなっていうのが多いから、家で弁当を作ってきたりする人もいたり。でもちょっと歩くと、普通の定食屋で、おいしいサバの定食なんかがあったりするんだけど、そういうところは忙しくて、デリバリーなんてしてくれない。それを就労支援のために、「何時までに予約していただけたら、限定5食きっちり届けますよ」とかね。もう、そのビルの近所で評判の店だけ。そんなに何店もないだろうから、三つなら三つ選ぶわけですよ。いや、僕の勝手なアイデアですよ、一つの。
まず大きなオフィスビルに勤めてる人って、外に出ないんですよ。

川口:そうなんですか。