【ニューメディアが拓く面白人生!】8ミリ映画から衛星放送、iモード、スマホアプリまで。ニューメディアの可能性を広げるのが醍醐味。@慶應義塾大学 メディアコミュニケーション研究所【中編】

19.バーチャルな通貨が出てくると「持っている」「持っていない」という概念も曖昧に

さて、接触デバイスや消費行動が変化すれば、貨幣価値も変わります。皆さん、Airbnbって利用されたことありますか? これは、例えば下田で別荘持ってる人が、「使っていないエキストラのルームを3000円で泊まっていいよ」って一般的なホテルの3分の1ぐらいの価格で提供するコミュニティなんです。もともとサンフランシスコで始まったので、西海岸に行くとものすごくいい部屋に、信じられないほどのお手軽価格で宿泊できることもあるんです。似たようなサービスにUberがあります。これは昔で言う「白タク」ですよね。車持っている人が「自分では乗らない時間があるから、好きに使っていいよ」って、これもスマホでネットワークしちゃうわけです。日本だと国土交通省などの反対もあって、まだそれほど浸透していませんが、AirbnbとかUberのような横から横にお金が流れる貨幣市場ができつつある。これ、税金かかっていないので、お金が中央に集まらないんです。その対抗策として、国も法人税を払う仕組みを作ろうとしていますけど・・。

皆さん、まだ最低限のキャッシュは持っていらっしゃるんでしょうけど、クレジットカードなどの信用取引は明らかに増えていますよね。たまに新聞を賑わすビットコインみたいなバーチャルな通貨が出てくると「持っている」「持っていない」という概念そのものもどんどん曖昧になっていきます。国がコントロールできない紙幣を流通させたら、何が起きるか? まず国境の意識が低くなりますよね。価値観が共通化され、いろいろな世界の人たちとボーダレスに結びつくようになるほど、国家という枠組みがどんどん小さくなっていく。その結果、幸せの方向に行くのか、不幸に向かうかはわかりませんけれど、これもスマホ世代の新しい貨幣価値なのかなと思います。こういうのをシェアエコノミーっていうんですね。

20.いかに他人が考えつかないようなユニークなアイデアを出すのか

電通のコピーライター、並河進さんがやっている「WITHOUT MONEY SALE」という実験的なウェブサイトがあります。例えば、美味しそうな紀州の梅干しが紹介されていたとして、実はこれ、お金じゃ買えないんです。いい感想文を送ってくれた人だけにあげますとか、いい写真撮ってシェアしてくれた人にだけあげますとか、毎回テーマは違うのですが、いろいろお題があって、それに答えた人だけがもらえる。暗に「お金で買えないものもある」ということを教えているサイトで、人気殺到なんですね。こういう流れも、新しい貨幣価値を考える上で大切なことだと思います。

いかに他人が考えつかないようなユニークなアイデアを出すのか。それこそが最強のマーケティングツールになると思います。もう亡くなられましたけど、当社の顧問をしてくださっていた内田勝さんという天才編集者が、1965年に少年マガジンの編集長になられた際、ライバル誌のサンデーに負けまいとしてやったのが、水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』なんですよ。当時、マンガはニューメディアだったんですね。そこに、貸本、お芝居、紙芝居などオールドメディアでやっていた水木先生や『まことちゃん』の楳図かずお先生、『ゴルゴ13』のさいとう・たかをさん兄弟などを無理やり引きずり込んで、デビューさせた。「これまでマンガはおやつだったけど、今やおやつこそ主食なんだ」と口説き落としたわけです。

21.狙い目は裏道寄り道にある!
「奇の発想」を身につけよ

もちろん、それまで全く少年誌と縁のなかった作家を世に出すためにはアイデアが必要です。『巨人の星』や『あしたのジョー』も内田さんがプロデュースした作品ですが、それまでになかった原作マンガを作ることを思いついた。原作者と作画を分けることによって、より本格的な物語を提供できると閃いたわけです。「マンガは暇つぶしじゃなくて、本格メディアなんだ」と内田さんは位置づけていました。その後も『天才バカボン』など数々の名作をプロデュースしたのですが、彼の信念は「人の行く裏道に道あり花の山」。これは名もない投資家の言葉で、「投資で儲けようと思ったら、みんなが同じ会社の株を買っているときに同じ株を買っても、希薄化が起きるだけ。狙い目は裏道や寄り道にある」というような意味なんだそうです。「奇の発想」と呼んでらっしゃいましたけども、みんなが見ているものに目を向けるだけでなく、もっと他に面白いことあるんじゃないかって裏を考える思考も身につけてほしいと思います。

余談ですが、内田さんは「大物の3条件」として、声が大きい、よく食べる、うそをつかない、この三つを挙げていました。改めて見てみると、ぼそぼそ喋る社長って、確かにあまりいませんよね。食が細い社長もほとんど見たことがない。皆さん、大声で話し、パッパッと豪快に食べるかたばかりです。ただ、うそをつく大物は、周りにまあまあいるんで、これだけは正しいかちょっとわかりません(笑)。皆さんも社会に出たら「声が大きい」と「よく食べる」をぜひ心がけてください。