資本主義社会の中で、好きなことだけを仕事にする生き方とは?
角田:ちょっと僕、福田さんに悩みごとを相談してもいいですか。
福田:もちろん。でも角田さん、悩みなんて全然なさそうだけど。
角田:いやいや。この前、確定申告でお金のあれこれをやっている時に、大杉漣さんの訃報を聞いて、考えたことなんですけども。生きていくためには、好きな仕事だけではなくて、気の進まない仕事ももちろんやらなきゃいけない。つまり僕の所には、「この番組を人気にしてくれ」とか、「視聴者を獲得したい」ということで仕事がくるわけですね。それは仕事だから分かるんです。けど、もしやりたくないと思った番組でも、それはやったほうがいいのかなっていう。
福田:「自分はやりたくない」と思ったら、ですよね。
角田:はい。たとえば自分がある本を書いたとするじゃないですか。僕はその本を読みたいと思う人、それが1万人なら1万人だけに届けばいいと、本気で思っているんです。10万人ぐらいにいくのはつまんねえなぁと。
福田:間違ってないですよ。チェーン店じゃなくて、「京都の老舗」でいいんですよ。
角田:そう。僕の本に興味がないという人には、「べつに読まなくていいよ」と本気で言いたいわけですよ。テレビもそう。もう見なきゃいいじゃんと。だって、「君に気付かれるほど、おもしろさはやわには作っていないから」と。でもそれを言っちゃうと、資本主義では敵になって、仕事はなくなっちゃうわけです。
福田:考え方は全く同意しますけど、別にそれは言わなくてもいいことですよね。それって、話の角度を変えると、仮想通貨に対するビジネスマンの取り組みと一緒なんですよ。「仮想通貨やってる?」「やってるやってる、ICOトークンな」てなことを言うわけですよ。で、「じゃあ仮想通貨で100億あったら、何やりたい?」って聞いたときに、「まぁ、あったらいいよね」みたいなことを返してくるやつには、もう何もやるなと言いたい(笑)。つまり「人気者になりたい」というのは「仮想通貨やりたい」と同じなんです。「100億あったら、何やりたい?」と聞かれた時に、「地球から核廃絶させたいから、そのためには51兆円はかかるんですよね」って言う人だったら、「よし、手伝う!」ってなるじゃないですか。
角田:そうなんですよ。そういう人はお金あるから、「人気者にしてくれ」ってオファーしに来るじゃないですか。そうすると、適度にあしらわなくちゃいけないじゃないですか。
福田:そういう時、質問はされるんですか。「なんで人気者になりたいんですか」っていう以前に、「人気者になれる要素があなたにありますか」って。
角田:例えば、30代女性が見る番組は視聴率がいいから、作ってくれと言われるとするじゃないですか。でも30代女性のために作った番組で当たった番組って何だというと、僕はこの世に1個もないと思っていて。『世界の果てまでイッテQ』は人気だから30代女性も見ているけども、別に30代女性のために作ってないじゃないですか。30代の女性といっても、ドビュッシーが好きな人もいれば、さだまさしが好きな人もいれば、RADWIMPSが好きな人もいて、全部嫌いな人もいるわけで。それをひとくくりにして、「その人たちを取りたいんだよね」なんて言っても、作品では消化できないわけですよ。ところがその作品を作らないとお金をいただけないわけだから、僕はずっとお客様の擬似恋愛相手とでも言うか、「銀座のクラブの女」をやらないといけなくて、そういう人たちに夢を売っていかなきゃいけないんですよ。でも、ちょっともう、銀座のクラブの女が疲れちゃったんですね。
福田:仕事で、本当の恋愛がしたいという相談ですね。つまりそれは、知っちゃったということですよね。「世界の果て」って、地球は丸いから本当はないんだけど、地球の外とか、キューブリックの世界で「宇宙の果て」はあるんじゃないかっていうことを、本気で考えて知っちゃったんですね。
角田:そうそう。そんなことを知らない若い時は、人気者の番組で、「業界でびゅんびゅんいってりゃいいや」と思っていました。
福田:それがある時コツンと、ちょっと違うんじゃないかというところに当たったと。