センスや感性は教わるものじゃない
福田:文京区のある小学校の校長先生が、「人間」って授業を作ったんですって。魚河岸のおじさんとか、工具を作っている職人とかを毎回ゲストに呼んで、仕事について語ってもらおうという主旨でね。そうしたら子どもから、「月収いくらですか」って質問が出るっていうんです。なんでそういうことが起きるのか。これはもう、イマジネーションの方を育てる「想像」とか「創造」っていう授業も作ったほうがいいんじゃないかという話になったらしい。
角田:さっきの弟子を持ちたくないっていう話につながるんですけど、僕は「そんなセンスは自分で見つけて来いよ」って、ちょっとだけ思っていて。だから「良い教育を受けること=良い教育」とも思っていないところがあるんですね。教育っていいものも悪いものもあるってことを知ることだと思うんです。
福田:たしかに、ゆとり教育は何も生みませんでしたしね。
角田:そうなんです。僕はセンスって、結局「自分から知りたい」と思わない限り、勝手に育つものでもないかなぁという気がしていて。
福田:先日、元東京都知事の猪瀬直樹にお目にかかった時、「なぜ石原慎太郎さんが、東京にオリンピックを誘致しようと言い出したのか、聞いたことがある」と伺ったんですよ。すごい話ですよね。「どうしてですか」と聞くと、「世界中の最高品質のマッスルを、日本人に見せたい」と。そんなモチベーションは政治家の言葉とは思えないですよ。クリエーターですよ。だから、石原さんが良い悪いではなくて、やっぱりすごい感性を持って、東京オリンピックの招致だったんだなと。そこで初めてオリンピックに関心持ちました。
角田:そう。繰り返しになりますけど、冒頭で話したトーク番組の『オトナの!』論に近づくんですけど、ただかっこいい人を見せて流せば、それで響くが感性があるわけですよね。「感性とは、センスとはこういうものです」という授業をやってしまうと、それはもう感性ではないんじゃないかってちょっと思っていて。だから、「テレビってくだらねえよ」って言うのは、「お前がくだらないからだ」って、いつも僕は言ってるんです。「政治ってくだらないよね」って言うけど、国民のあなたがそのくだらなさを作ってるんだよと。僕がテレビを作っていていつも思うのは、「最近見てないっすけど、テレビってつまんないんですよね」じゃなくて、「見たんだけどつまんないです」って言ってほしいんですよね。
福田:そうですよね。僕の場合はもうちょっとギャグっぽく、「テレビくらい見ろよ」って言うようにしていますね。小ばかにした感じの笑みで(笑)。「えっ、テレビも見ずに、アナログを否定しているんですか、あなたは」と。
角田:だから僕は、たとえ不器用でおもしろいことは言えなくても、おもしろいことを考える能力があって、自分で感性を育てている人は世に出したい、その助けとなりたいと思いますね。
福田:どこまで行っても、日本人には20世紀のフレームがついて回る。そこから解放される術を、それぞれがそれぞれのやり方で見つけていこうということですね。非常に深い対談になりました。今日はありがとうございます。
角田:そう、解放されましょう。こちらこそ、ありがとうございました。
(了)