肌感覚で「海を知る」
福田:学長のインタビューにも、海をテーマにしたお話が多くありましたけれど、本当に今、海ほど大事なものはないですよね。
『Forbes 30 Under 30 in Europe』(*3)といって、さまざまなジャンルの権威あるスタートアップの賞があるんですけども、受賞者の一人に、バイオカーボン・エンジニアリング社の共同創業者のスーザン・グラハムという女性がいるんです。この会社は、世界の森林破壊を解決するためにドローンで植林をする、というベンチャーなんですね。これまでは学者の先生が森に入って木を一本ずつ見て、「この森は駄目だ」と判断したり、ヘリコプターで農薬を散布したりしていたんですが、前者は時間がかかりすぎるし、後者も確実性に欠ける。で、なかなか問題解決に至らなかったわけですが、ドローンを飛ばして、広角カメラで木や葉っぱの写真を撮影すると、すぐに森の生き死にが分かって正確に対処することができるそうなんです。そうすると、人の手の100倍、ヘリコプターの10倍のスピードで森が再生するんですね。バイオカーボン社には、「地球の気候変動の軌道を変える」という大目標があって、5000億本の植林を実現できれば、世界をカーボンニュートラル(排出される二酸化炭素を自然が吸収できる段階)にすることができるらしいです。
こういう、テクノロジーで地球を救うことを考えると、やっぱり最大のテーマは海ですよね。今、マイクロプラスチックの問題があって、国境という見えないものからは、どこからプラスチックゴミが出ているのか、因果関係を証明することができません。このままいくと、2050年にはマイクロプラスチックの量が魚の量を越えてしまうという説を先日初めて知ったんです。マイクロプラスチックの状態を衛星を飛ばして分析するところまで、「2年以内に持っていこう」という企業があるので、そこにも投資をしています。とにかく、「生まれたからには何か一つ大きなことをやって死にたい」という思いがあるんですけども。恥ずかしながら、海についてはそれぐらいの知識しかないのですが、海は一体どうすれば、きれいなものに戻るのでしょうか。
岡本:やっぱり、「知る」ということが重要ですね。僕たちは陸上にいれば空気の香りや匂いを敏感に感じることができますが、海の中では呼吸ができないので、それがない。だから結局、海の中のことは、自分の直感としては分からないんです。
福田:肌感覚として分からない。
岡本:そう。だから一生懸命にセンサーを使ってデータを数値化し、水の中を見ようとするけど、まだまだですね。陸上にはものすごい数の人がいて、みんなが万能センサーを積んでいるんですよ。だから「海を知る」ということを、まだまだやらなければならないと思いますね。
福田:そういう意味でいうと、あれだけ魚が好きで、海を愛しているさかなクンのような人は、絶対数が少ないんでしょうね。陸の上の評論家はいっぱいいますけども。
岡本:本当にそう思いますね。「水に流す」という言葉がありますが、その言葉通り、基本的には有機物は海に流せばすべて肥やしとなり、また戻してくれるのが海だと、僕も当然のように思っていました。それがおっしゃるように、プラスチックという脅威の存在が現れて、これがまた分解できないというのが問題になっている。ただ海底に溜まるだけではなく、細かくなって魚が餌と間違えてしまう。それが資源量にも影響するぐらい大量に海に流れ出ている時代になってきたっていうことですよね。
福田:あまりにも肌感覚がないから、地球で解決しなきゃいけない問題の順位でいうと、まだまだ低いですよね。
岡本:水の中のことはピンとこないので、まだまだ低いですね。それからもう一つ、「魚が湧いてくる」という表現がありますね。卵や稚魚の量などを調査して、「こうなるだろう」という予測をするのですが、まだまだ外れることも多いんですよ。分かっているようでわかってないのが海の中ですね。それから、魚が0.03度の温度を感知していることはあまり知られていません。水温が1度上がるということは、魚にとってはものすごいことなんですよ。
福田:0.03度。すごいですね。
岡本:だから、魚は0.03度の違いを感知できるセンサーで、水の中を見ているわけです。水温差0.03度のグラデーションの世界ってどんなふうに見えているでしょうね。きっと水温の道っていうのもあって、そこを通って遠くまでいくんだろうね、魚は。
福田:めちゃくちゃ繊細な世界ですね。
(*3)…アートからビジネス、スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する世界的経済誌『Forbes 』の名物企画。