『方丈記』に見る、モバイルハウスの原点
成瀬:好きなタイミングで好きな場所に行って、好きなことをやるという、渡り鳥みたいな感じは本当に割に合っていると思うんです。今、僕の中でいちばん面白いなと思っているのは、平安時代末期から鎌倉時代にかけて鴨長明が出版した『方丈記』で。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」で始まる、あの方丈記ですが。
福田:『方丈記』。中高生の時に読んで以来ですね。
成瀬:ですよね。作者の鴨長明は、4畳半の家に暮らしながら、自然の中で自分のやりたいことしかやらないっていうテーマで暮らしていたんですよ。神社の生まれなんですけども、うまくいかずに最後は、俺はやりたいことをやっていくんだと。ヒッピーみたいなもので、悟りたいというところもあってか4畳半の家で毎日、琵琶を弾きながら楽しんでいるんです。
福田:陽気な引きこもりみたいな(笑)。
成瀬:そんな感じです。あと面白いのは、『方丈記』の本質って、いわゆる「モバイルハウス」じゃないかと思って。あれ、実は折りたたみ式で牛車で運べる家なんですね。つまり、モバイルハウスの原点というか。鴨長明が言うところの、『ゆく河の流れは絶えずして』は、「ずっと同じことはない」。しかも『もとの水にあら』ない。大きい家も小さい家も20軒あったうち、残っているのは1軒しかない。さっきのプラットフォームの話も同じく、栄枯盛衰でどんどんなくなっていく。今を生きる僕たちも、それにならってちゃんと移動できるような、しかもこちらが変化できるようにしておかないと。暮らしも生活も仕事も含めてですけど。そういった理念を持って生きてくことで、生まれ変われるんじゃないかなと。
戦後、20代で東京大空襲を体験した堀田善衛という著者がリアリストとしての鴨長明を再発見した『方丈記私記』という体験記を出版したんです。『方丈記』が書かれた当時は戦乱で戦や火事が多くて、そんな大変な世の中を憂いて、方丈に暮らしたわけですよね。『方丈記私記』もある意味、戦後の大変な時期で。現代社会に暮らす僕らは、戦争が目に見えてあるわけじゃないですけども、逆に流れの早い今の時代だからこそ、生き方を考え直すきっかけとしては面白いなと思って。
福田:そういうことを考えるきっかけはあるんですよね。ただ、そういうことを考えないような作り込みを人類がしてきちゃったので。「昨日のフレームを壊すな」っていう意識が働いちゃうんでしょうね。
成瀬さんのような生き方、働き方をしている方を知ると、「なるほど、生き方はいろいろだ」とか、「そんな旅の楽しみ方もあるんだ」とか、とくに若い人が知るともっといいなと思いますね。
今日は、山場のたくさんある面白いお話がお聴きできて、楽しかったです。本当にありがとうございました。
成瀬:こちらこそ、ありがとうございました。
(了)