「難民=かわいそうな人」を全面にしない
福田:実際、企業研修を受けたところからは、どういう反応が?
渡部:最近の企業では、現場の人が上から、「CSR」「SDGs」などにひも付いたプロダクトサービスを求められることが増えているんですね。ところが現場の人は、とくに大企業になると、ずっとエリートできて入社されている方が多いから、いきなり「社会課題で何が気になる?」って問われても、何も思い付かないみたいで。「少子化?」「鬱?」みたいなことしか出てこないところに、祖国の戦禍から逃れてきた人と一緒に、社会や世界を考えることを1周やったときに、興味関心が180度変わるようです。例えば、「自社製品をこういうのに使えるんじゃないか」とか、製薬会社さんですと、「うちの薬品は、公衆衛生に使えるんじゃないか」とか。企業側も、社員にそういう思考回路の変化を求めているようなので。
福田:なるほど。面白いですね。どういう業種の企業が、今までクライアントになったんですか。
渡部:食品系とか、製薬会社とか。若い社員だけではなく、幹部や執行役員の方、マネージャークラスの方が研修を受けられる場合もあります。
福田:ビジネスアイデアの発想を広げる意味でも、今後、需要があるかもしれませんね。
渡部:この先も、私たちが寄付を一番の収入源にしないつもりでいるのは、そういう企業研修を通じて、難民の人たちの良さやスキルが生かされたり、発揮されたりすることを中心にしたいからです。かわいそうな場面や全てが立ち行かないシーンを前面に出して支えてもらおうとしてサポーターを募るよりも、難民の人たちを企業で使いたい、実力がほしいというマーケットを増やしたほうが社会との接点も増えるし。ゆくゆくの就労に結び付くケースが増えていくと思いますし。
福田:素晴らしいですね。難民の人たちは、語学はみんな大体、英語ベースですか。
渡部:「自分の経験を活かして仕事をしたい!」とWELgeeにやってくるような人では、英語を話せる人は8割ぐらいいますね。大卒・大学院卒も半分ぐらい。別に学歴がどうとかじゃないんですけど、やっぱりやってきたこと、専門性を持った人が多いので。中には10年職人をやっていた人もいますし。
福田:社会人としての資質は、日本人よりもあるだろうね。むしろ、全然上かも。
渡部:いくつかの国をまたいでビジネスをやっていた人もいますしね。日本語はこっちに来てから猛勉強しますけど、1、2年でもう日本語だけで会話ができる人もいます。「これで6カ国語目になった」とか。
福田:そう聞くと、つくづくぬるすぎですね。日本はやっぱり。言葉の問題もちろんあるんだけど、英語が話せないだけで、コミュニケーションが取れないだけで、日本はどんどん置いていかれている。単なる言葉なんですけどね。だから何にも飛び込んでいけていない。
渡部:やっぱり、生の情報とか生の人から得るっていうことができないですよね。
福田:命がけで生きてきた難民の人たちのアイデアというのは、たしかに企業はもちろん、今の日本人には必要でしょうね。
渡部:彼らには、「逆境パッション」があるんですよ。逆境を乗り越えてきたパッション。
福田:逆境パッション、いい言葉ですね。
渡部:東南アジアや中国、インドなど伸びていますし、彼らはやっぱり逆境パッションがあるんですよね。生きるっていうことを毎日重ねている感じがあって。
福田:“暮らしに力がある”ってことですね。逆境にあって失敗にあってもそう思わないことが大事。そう思わない要素を探すことが大事。でも、失敗はすればいいと思うんです。僕なんかもしょっちゅう失敗しますよ。そして、失敗したらやめるの。始める力も強いけど、やめる力も強い。
渡部:やめるのも勇気が要りますけどね。
福田:早くやめるのがポイントなんです。それでやめ慣れると、やめたら次にすごいものが必ず来ることがわかるようになります。これ、ルールみたいなものだね。絶対に、パッと来るのよ。
渡部:今の、すごく大事な言葉ですね。