なぜ百貨店でモノは売れなくなったのか
福田:僕のところにブランディングの依頼に来るクライアントの方は、「どうやって集客すればいいか」という悩みが99.9パーセントです。その答えのひとつは、渋谷ハロウィーンのように、「センターがない状態」、つまり渦を作ること。
前回、コンセプターの坂井直樹さんをお招きしたときは、「マーケティングとブランディングの違い何か」というのがテーマだったんですよ。マーケティングというのは、もう昔から変わらず、「新商品、新サービスが出しました」「知ってください」「買ってください」と、広告を打つわけですね。知ってもらって買ってもらうって、ものすごく大変なことですよね。そこでブランディングには、さらに「愛してください」「しかも長く」っていうのが加わります。でもそれって、お金では買えないんですよ。愛ですから。受け取った側、ユーザー側が「私、ヴィトン好き」「私、原宿好き」「私、きゃりーぱみゅぱみゅ好き」っていう状態をつくったときに、はじめてブランディングで成り立つわけですよ。売り手側ではなく、コンシューマー側がそう思ったときに。
柳瀬:だから「球」は、お客さんサイドが持っているわけですね。
福田:そう。つまり「ええじゃないか」っていうのは、球は完全に渋谷区側にはなくて、お客さん側にあるわけです。これを活用できないっていうのは、柳瀬さんのおっしゃるとおり、商売人として、マーケッターとしては残念な限りで。もちろん暴れて車を倒していいっていうことはないですけども、ビジネスにするためのやりようはあっただろうと。そこに商機を見いだせないと、マーケッターとしては駄目だなって思います。
柳瀬:ちなみにセンター街の店主たちデパートや商業施設から福田さんが相談を受けたとしたら、まず何をサジェスチョンしますか?
福田:15万人が渋谷に集結して、みんな「モノを買いに来たわけじゃない」って言うかもしれませんけど、上から見るとずっと流動しているんですよね。この間、渋谷区の建築家の方のCGを見たんですけど、五つの路線がずっと下りてきているんです。商店街はというと、それを上らせる導線がなかった。だから「15万人の人がハロウィーンには来る」って分かっているんだから、その動線を作って、そこにあるお店にはみんなが欲しいものを売ればいいと思いますね。何かというと、絶対コスプレですよね。六本木のドン・キホーテは大活躍ですよ。
柳瀬:あそこのドンキ、大活躍ですね。
福田:ドン・キホーテはあの時期、1階にコスプレコーナーをしっかり設けているんですよ。やっぱり、街を知っていて読んでいますよね。渋谷の商店街の人も、来る人の属性が分かっているわけですから、そこでコスプレもインスタ映えするものとか、今の要素を全部入れたときにビジネスが成り立つと思います。
柳瀬:ですね。
福田:この間、ある百貨店の社長から、「お客はみんなウインドーショッピングばっかりして、みんなAmazonで買っていく」って相談を受けました。「いろんな対策があると思うんですけど、単純に言うと、今の百貨店はインスタ映えしないからですよ」と答えました。だって、百貨店の中って撮っちゃ駄目なんです、写真。
柳瀬:百貨店はなぜ、インスタ映えを拒否するのか。
福田:百貨店の陳列にはノウハウがあるから、写真をOKにすると、それがばれるって言うんですね。でもそれ以前に、モノが売れてないんですよ。お客はただ見て、Amazonで買うんですから。持って帰るのも面倒くさいってね。
柳瀬:大体、陳列がそのまま綺麗な状態、という時点で、モノが売れてない証拠ですよね。
福田:そうなんですよ、陳列にノウハウがあると思い込んだ時期があったんでしょうね、昭和50年の前後とか。
柳瀬:1980年代初頭ぐらいで止まっている。
福田:最近、新聞を見たら、その百貨店が「モノを売らない百貨店を作りました」って書いてあって、もしかしたらアドバイスがちょっと響いているのかもしれないなと思って。要するにApple化ですよね。買えるけど、基本的にプレゼンテーションの場だよと。だったらインスタ映えする百貨店ってあってもいいと思うんですよね。