グレイトフル・デッドの戦略的マーケティングがすごい
柳瀬:この話の流れでいうと、世界中のミュージシャンはいち早く、「かっこ日本を除く」なんですけど、コンサートでのスマホ撮影OKにしているんですよ。バンバン撮らせますよね。スティングもポール・マッカートニーも撮らせています。
福田:コールドプレイのライブ行ったときに、プロの4Kを持っている人がうまいこと撮っていましたね。後で見たら、ちゃんとYouTubeに4Kで投稿されていました。今、YouTubeが入っているテレビだと、そのまま4Kで視聴できちゃいます。それで彼らの音楽配信の売り上げが下がっているのかというと、むしろ上がっているんですよね。まさにフリーミアム効果。
柳瀬:『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』という、マーケティングの世界では有名な本がありまして。僕も日本版の出版にちょっと関わったんですけど。
福田:むちゃくちゃ面白い本です。これ、皆さん読んでください。
柳瀬:グレイトフル・デッドは、アメリカの伝説的なヒッピーバンドです。ウッドストックで名を上げたんですけれども、日本ではあまり有名じゃないのは、来日していないから。アメリカでは70年代、ストーンズよりクイーンより一番、ツアーが売れに売れたバンドなんですね。
グレイトフル・デッドがツアーをやると、そこに街ができるんです。みんな勝手に、グレイトフル・デットグッズを作っちゃう街ができる。要は海賊版を作って売っちゃう。勝手に撮ったテープ、勝手に作ったロゴマークのTシャツを売ったんですよ。最初はグレイトフル・デッドの連中も「うちの公式グッズが売れないじゃん」って怒っていたんですが、よく見ると「っていうか、こいつらのおかげで客が来てるじゃん」ということを理解して、彼らは発想を変えて。
福田:グレイトフル・デッドは海賊版をありにしたってことですよね。
柳瀬:そうです。誰が、何を撮っても売ってもいいと。自由にやらせるので、街にマーケットができるんです。マーケットができると競争が生まれます。そうすると、とりわけTシャツ作りがうまいやつとか、とりわけ音声を撮るのがうまいやつがいます。そいつを公式に雇って、公式Tシャツやライブアルバムの録音をさせるんですよ。
現在のフリーミアム(基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金する仕組みのビジネスモデル)は、実はグレイトフル・デッドが1970年代にとっくにやっていた。ツアーの街では安いテープを売っているけど、中心ではちゃんと、レコードでカッティングされた音源を、正式にプレミアムで売る。でも録音スタッフは、元海賊屋なんです。お金がない人は、最初は300円ぐらいで買ったカセットテープで汚い音で聞いているけども、ファンになったら最終的にはアルバムを買うわけですよ。結果として、薄いところから濃いところまで、巨大なグレイトフル・デッドのファンマーケットができあがる。これってまさに、さっきの百貨店の話と通底しますよね。
福田:そうですよね。グレイトフル・デッドの本で面白かったのは、彼らはCDや音源がメインだった時代に、「ライブラリーよりライブだ」ということに気付いて。だから自分たちの持ち歌は、150曲ぐらいしかないんです。
だけど、持ち歌は500曲ぐらいあるんですよね。だから「俺たちのツアーは毎回来ても、毎回違う楽曲だよ」っていうことができたから、ライブに価値があるように持っていったところが成功の秘訣です。実はそれって今のビジネスにとっても必要なことなんですよ。
柳瀬:そうなんです。「モノからコトへ」なんて話、よく言われましたよね。僕が小学校の頃、70年代から言われていましたし、80年代も言ったし。ものが売れなくなると、駄目なマーケッターはすぐに「モノからコトへ」って言うんですよ。あれは半分ホントで半分ウソです。最初からモノとコトはセットなんですよね。モノが単体として成立するのは、オタクがモノを集めてるときだけで、大半のモノっていうのは、コトとセットなんですよね。使ってなんぼですから。日用雑貨なんてみんなそうです。包丁をコレクションするのはオタクで、普通は料理に使うわけです。「モノからコトへ」ってやたら言いたいのはなぜでしょうね。
福田:業界用語ですね、完全に。