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経済と社会のマーケットはズレている

~WASEDA NEOトークセッション第2回~Talked.jp

柳瀬:元号の話でいうと、平成って、皆さんは「不況」のイメージがありますよね、平成不況というぐらいで。平成になったのは1989年で、89年の12月31日の株価が3万8000円ちょいでピークだったわけです。その後、株価は徐々に下がって、完全にバブルが終わったと言われるのは大体91年ぐらい。でも、実際に空気としてのバブルは、93年から94年ぐらいまで続いていたんです。例えばテレビでよくやるジュリアナやヴェルファーレの映像がありますけど、ジュリアナができたのは91年5月15日。六本木ベルファーレは94年12月です。なので、一般消費者の世界における「バブルっぽい」ピークはむしろバブル崩壊後なんですよ。正確に言うと。

福田:意外ですね。面白いな。

柳瀬:お金のマーケットと社会のマーケットって、必ずズレがある。バブルでお金があった瞬間のマーケットは88年から89年です。ちょうどわれわれが社会人になった頃。このときの実感としてまだ、一般サラリーマンにお金がいっぱいあるっていう感じはなかった。87年までは一瞬、円高不況だったりしたんですね。ちょっと景気が落ち込んだ後に、一気に株価と土地の値段が上がってバブルになったけど、その恩恵が一般のサラリーマンに落ちてくるまでズレがあった。輸入品が入ってきても、最初は高いわけです。ディスカウントして安くなるまでに手間と時間がかかるわけです。
フランス料理は80年代に随分普及しましたが、一般サラリーマンがフレンチをガンガン食べるまでに至らなかった。日本の場合、フランス料理の普及版は、じつはフランス料理じゃなくてイタリア料理なんですね。一部ビストロブームを除くと。イタリア料理ブームって、90年代になってから。だから一般の人がバブルっぽい感じを実感したのは、バブルが崩壊した91年から93年ぐらいの空気なんです。僕はたまたま日経BPの物流雑誌の取材で、ジュリアナのオープニングに取材に行きました。あれは円高で荷物がなくなった湾岸の倉庫の空きスペース利用のビジネスでしたから。日商岩井などの商社がイギリスのウェンブリーグループと組んで、ロンドンで流行っていた、倉庫街などのジェントリフィケーションでクラブを作ったムーブメントを持ってきたものです。その前には、MZA有明が潰れた時も取材に行きました。

福田:ありましたね。

柳瀬:現場で取材していたので、後からみんなが「バブル景気」の映像として使うものが、すでに金融市場では「バブル崩壊」の時期だった、というズレをいくつも見てきたんです。
 だから平成の初期の空気は、むしろ昭和の空気だと思っていて。結局、平成の初期のイメージって、一つ前の昭和の末期、昭和元禄っぽいわけです。バブルの絵柄は、昭和っぽく感じるけど、ほとんど90年代、つまり平成初期です。
 不況という言葉でイメージされる平成は、6年遅れて、1995年にスタートする。阪神大震災とオウム事件の年です。それから97年にかけて、金融崩壊に至る、不況のとば口のイメージが強いですね。
 で、今度は現在の景気です。今でもみんな「不況、不況」って言うじゃないですか。90年代半ばからずっと言っている。でも実際はご存じのとおり、今は景気の数値的には2012年12月から数値的には景気は拡大傾向です。近年の不況は、リーマンショックの2008年から震災の2011年の終わりぐらいまで。大人は何となく不況を引きずっているけども、大学生たちに聞くと違う。ここ数年、大学生は今が不景気とは必ずしも思っていない。数字的には好景気だし、就職も好調ですから。
 平成はずっと不況で「失われた30年」って言い切っちゃうけど、90年代の金融崩壊、2000年代後半のリーマンショックという不況を目の当たりにした世代からすると、景気に対する見え方は世代によって随分違う。

福田:関西人があいさつ代わりに、「儲かってまへんわ」って言うなら分かるんですけど、やっぱりムードに左右されるので、ブランディングやマーケティングが大事で。そういう意味では安倍内閣は、なかなかのマーケッターぶりなんですよ。消費税を秋にしようとか、効果的な施策しているとは思う。

柳瀬:そうなんです。大人は、小泉内閣が終わって、自民党政権の迷走、民主党政権誕生とその崩壊をずっと見ているから。「政治が混乱している=マーケットは駄目」って思っちゃう。だから余計に、キャッチコピーとして平成不況って見てしまうのは、ずっとありますよね。

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