社会背景からの最適解で、 強いアートを生み出したい
福田:施井さんは、アーティストであると同時に、マーケッターなんでしょうね。だから奈良美智さんタイプではなくて、村上隆さん、アンディ・ウォーホルタイプなんでしょうね。 そうでないと起業されるなんてことないと思います。
施井:そうかもしれないですね。だから天才ではないです。真性アーティストのような天才型ではないんですよ。
福田:いや天才でしょ。実際、このスタートバーン株式会社というベンチャーをやろうというふうに至ったキッカケについても、ぜひ伺いたいです。
施井:多摩美を卒業した時に、トップのアーティストになるにはどうしたらいいかと模索したんです。美術史をみると、技術が勃興しているときにはアートも勃興しているんですよ。ルネサンスなんかその典型ですけども、それ以降もずっとそうで。ということは、アーティストとしてもっとも名が残るようないい作品を作るには、今の社会背景からの最適解を出せばいいのかなと思ったのが、卒業してすぐで。そこから森美術館のプレイベントなどで、コンピューターを展覧会の会場に設置するよう試みました。でも来場者が数千人来ても、アクセスしてくれる人は20人とかだったんですよね。
福田:20年くらい前ですね。
施井:はい。だから美術館の中にコンピューターを置いて座らせるっていうのは、効率も動線も悪いなと。それは多分、ダ・ヴィンチもピカソもやらないやり方だなと思いました。アーティストがこの時代にテクノロジーを反映したものを作ると言ったときに、このやり方じゃないなと思ったんですよね。
福田:なるほど。
施井:その果てに、2種類の答えが出ました。1つはその後、本棚の作品を作ったときに、コンピュータという記号を使わずにインターネットを表現するのはどうだろうと、昔ながらのアートの作り方を一つラインとして作りました。
そしてもうひとつが、インフラそのものを作ろうというラインです。2006年の同時期にこの2つのアイデアが出たんですけど、インフラを作るのに思いのほか苦労して、10年かかってしまって。
福田:2006年から10年というと、一昨年じゃないですか。そういう施井さんの作品群は、今でもどこかで拝見できるんでしょうか。
施井:事務所に1点ありますので、よろしければ後ほど。
福田:ぜひ。ありがとうございます。