大企業はテクノロジーから 「2周回遅れ」でちょうどいい
福田:プラットフォームの企画者とアーティストっていうのは、ちょっと反する働き、時間の使い方ですよね。それを両立させることは可能なのでしょうか?
施井:いろいろ調べてみると、じつは今のアートマーケットをつくったのはピカソだという説があって。
福田:そうなんですか? 面白い。
施井:ギャラリーのシステムとか。アーティストって、自分の作品がよく見えるために意外と動いていて、千利休とかもそうですけど、茶器のマーケット作っていますよね。自分たちがその時代のコンテンツを作るだけじゃなく、その価値、環境もつくる動きを、意外とアーティストはやっているんですね。
福田:考えてみたら利休なんて、今のサロンビジネスですよね。しかも、資格を曖昧にしておくことによって、付加価値を付けるという。
施井:プラス道具も売っているっていう。
福田:下手すりゃ今、道具なんてすごい高い。でもピカソの話は知りませんでした。そう考えると起業とアートは両立可能かもしれませんね。
施井:ピカソもそうなんです。それこそ実業家の山口揚平さんも、ピカソの本を書いてましたよね。
福田:数ヶ月前に山口さんと雑談したときに、「日本の演劇は何がダメだか知ってますか?」と、聞かれて。理由は上演期間が短すぎるからだというんですね。コスト分析をしたら、人件費以外にかかるのは装置代なのに、その投資を回収する前に終わってしまう。あとはずっと純利が出る期間があるはずなのに、そのアップサイドを取っていないと。でも、下北沢を見たらそんな感じの人一人もいませんよね。
施井:はははは(笑)
福田:僕はずっと同じことこだわるんですけど、テクノロジーが進化して、いろんな選択があるのに、一般のおじちゃんおばちゃんが知るまでの「溝」というか、タイムラグがあるじゃないですか。それを圧倒的に短縮するアナログ力をどう広く伝えていくかというのが、自分の年代の課題かなと。
施井:それは、具体的にいうとどういう意味ですか。
福田:たとえばマーケティングの仕事をやっていると、最新鋭の手法をみんな知りたいしやりたい。「VRをやりましょう」とか、「人工知能やりましょう」とか。企業の宣伝部長も勉強してるから、「じゃあ、それキャンペーンやりましょう」ってなるんですけど。でも社長決済っていうフェーズになると、トップの方は2周回くらい遅れているんです。経営者の方は圧倒的にインプットの時間がないのと、お金儲けってすごいノウハウだから、お金もうけに関わる人ほど時間の感覚が長い。でもマーケットで起きていることや、街で起きていることをほとんど知らないので、僕が2~3年前のトピックスをお話すると、すごい前のめりになって聞いてこられるんですね。
施井:なるほど。そうはなりたくないですけども。
福田:でも、僕は大きい会社はそれでいいんだと思うんです。「今頃こんなことやっても大丈夫かな」と聞かれても、「2周遅れでいいですよ」っていいます。なぜかというと、その2周遅れって、ちょうどリスクがなくて、コストが下がってるときなんですよ。最新だとコストが上がるじゃないですか。例えば、auだとかソフトバンクとか、大きい会社はなんでも最初にやらなきゃダメな会社のDNAがあるじゃないですか。そういうカルチャーに経営者がしていますよね。でも、そうでもない企業のほうが圧倒的に多いわけですよね。つまり、そうでもない企業が2周遅れでも3周遅れでもいい。僕はだから、自分が2、3年前のトレンドをお伝えする役割だと思っています。それを少しずつ短縮してお伝えしていると、「福田さんの言ってること、意外とお金になるじゃん」って、少し距離が縮まる。よりアナログになるっていう感じですかね。
だからデジタルマーケティングの会社を辞めたっていうのは、精神構造上もすごく良かったです。自分で会社をやっていると、社員を育てないといけないから、競争もあるし大変なんですよね。自分はどんどん年を取ってくのに、もっと若い子をずっと教え続けなきゃいけないっていうのは。だから今は自分の年齢に合って、いろんな人と組めるような状態であるために、生き方自体が分散型なんですよ。