発想の原点は、「構造を見る」ということ

発想の原点は、「構造を見る」ということ(後編)

編集:井尾淳子
構成:草野美穂子
撮影:越間 有紀子
日程:2021年3月18日

白河桃子 (写真/右)

相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、ジャーナリスト、作家。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。
中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。住友商事、外資系金融などを経て著述業に。ダイバーシティ、働き方改革、ジェンダー、女性活躍、ライフキャリアなどをテーマに著作、講演活動を行う一方、「働き方改革実現会議」「男女共同参画会議 重点方針専門調査会」「テレワーク普及展開方策検討会」など多数の政府の委員を歴任。近著に『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ) 『働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋 』(PHP新書)がある。

https://ameblo.jp/touko-shirakawa/

福田 淳(写真/右)

1965年大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。 ソニー・デジタルエンタテインメント創業者。横浜美術大学 客員教授、金沢工業大学 客員教授。ブランディング業務以外にも、女優”のん”などのタレントエージェント、北京を拠点としたキャスティング業務をはじめ、国際イベントの誘致、企業向け「AIサロン」を主宰、ロサンゼルスでのアートギャラリー運営、沖縄でのリゾート開発、ハイテク農業など、活動は多岐にわたっている。タレントと日本の芸能界にはなかった「米国型エージェント契約」を導入したことでも話題を呼んだ。
モザンビーク支援のNPO法人「アシャンテママ 」共同代表理事、NPO「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産業省、総務省、内閣府などの委員を歴任。
2022年4月30日『スイスイ生きるコロナ時代』(坂井直樹氏と共著/高陵社書店)を上梓。著書に『パラダイムシフトできてる? ~ポストコロナ時代へ』(スピーディBOOKS)『SNSで儲けようと思ってないですよね~世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。
公式ウェブサイト http://AtsushiFukuda.com

仕事は人生の一義ではない

福田:企業が商品を発表する時に、近年はInstagramのインフルエンサーを揃えたりしますよね。フォロワーが100万人、200万人いるような。でも僕は、フォロワーが多いことだけが価値ではないと思っているんです。
むしろそういうリストに載っていない、例えば、瀬戸内寂聴さんのひと言のほうが、価値があったりするじゃないですか。では、価値がある人を見極めるのは何かというと、著書を持てるぐらいの文章力と知性があるかどうか。そういう人じゃないと、人にインフルエンスを与えることはできないですよね。文章が書ける、書けないというのは、全ての業種において大事なこと。だから、今やるべきことはやっぱり、教育の強化かなと思うのです。

白河:なるほど。よくわかります。今の教育はまだまだ良い歯車の一つになるような教育ですからね。

福田:そのためには、エリート教育を復活させる必要がありますね。エリート教育とは、選抜されるわけです。それは良い悪いでも、差別でもなく、途中で落ちる者は、自分の能力の限界を知って、「自分の道はこれではなかった」ということを客観的に理解することができる。つまり、これも多様性なのです。「僕は数学の分野はめちゃくちゃダメだけど、国語は1位だな」とか「ここでは80番目だったけど、俺にはあっちの道があるぞ」とか。
僕は日大芸術学部を卒業しましたが、たとえば映画学科では、みんな映画監督になりたいから監督コースや演出コースを選ぶわけなんですけども、監督コースの70人が4年間で色々学んで経験していくうち、監督を目指すのは一握りとなり、残りは「自分は舞台監督のほうが向いているかもしれない」「照明が好きかもしれない」と、自然に全然違うところに活路を見出していくケースを目の当たりにしました。そういうことが社会でもあっていいのに、一律に「同じ山を登れ」というのが、前編でも出た「粘土層」を社会に作り出してしまっていたのですね。

白河:それもありますね。大学院の教授がヨーロッパのジョブ型雇用の話をしてくれたのですが、アメリカとは全然違うのですね。年収300~500万ぐらいの間で大卒ホワイトカラーの人が多くいて、その人たちは、例えば経理なら一生経理の仕事に就く。給与も上がらないが、とりあえず経理の仕事を続ける。ということは、一度会社に入ってあるジョブで契約すると、結構安定しているのですね。法律もあって、アメリカほどクビにはならないし、会社がリストラを行う時は古い人が優先される。この話で一番思ったのは、「仕事って、別に人生の一義じゃないでしょ、そういう人がいてもいいでしょ」ということでした。日本は、いくら稼げるかということとは関係なく、みんな人生の一義に仕事を持っているふりをしなきゃいけないようなところがあると思うんです。あれは変だなと思っているのですよね。

福田:働いているうちに、「一義だ」と思い込んじゃうんでしょうね。

白河:例えば100人一律にヨーイドンで競争が始まったら、その中で「この人は見どころがあるな」と、会社側も優劣を付けていると思うのです。でも、そのことは公には言われないから、ずっと競争を続けなきゃならない。日本は5割の人が22年目にして初めて「自分はこれ以上出世できない」と気が付くのですって。それ、遅くないですか?

福田:22年!? それ、すごく興味深いデータですね。22歳で入社するとしたら、43歳まで気づけないということですよね。

白河:そこから、「自分はもう、この会社でこれ以上、上には上がれないな」とよそに移ろうと思っても、どれくらいの人が納得できる仕事につけるのか?ということになると思うのですよね。

福田:「上がらなきゃいけない」と思い込まされちゃったんですね。先ほど話に出た、ヨーロッパの雇用のようなことでも、べつにいいじゃないかというムードがないから。「年次であいつは部長補佐までいった」とか、出世を気にするようになってしまうのですね。

白河:まだ出世した人もしない人も、そんなにお給料に差がないじゃないですか。それがメンバーシップ型雇用というものですよね。みんなで分け合う、みたいな。

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