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『“婚活”時代』が与えた影響

発想の原点は、「構造を見る」ということ  Talked.jp

福田:白河さんの著書の話に戻るのですが。「婚活」にしても「働き方改革」にしても、今回コロナが起きたことによって「働かないおじさんたちを再起動させましょうよ」という発想も、日々どういうインプットから起きるのですか? だって明らかに人が発想しないことをされているわけですよね。何かコツはあるのでしょうか?

白河:そうですね……。似たようなことを考えている人はいっぱいいると思うのですが……。何かあるのかというと、いつもちょっとだけ早い、というのはあるのかもしれません。「婚活」という言葉を考えたのは、家族社会学の第一人者の山田昌弘先生で、私が取材に行った時に、「それは“婚活”と呼びましょう」と言われて。それから「山田先生と2人で本を書いてください」という話になったので、私が考えた言葉ではないのですけど。二人でブームは作れたと思います。

福田:でも切り口は新鮮だったんだと思います。

白河:実は、その前に結婚の本を書いていました。普通の人が結婚しなくなったというテーマで、タイトルは『結婚したくてもできない男 結婚できてもしない女』。自分と、自分の周りのことでした。

福田:白河さんの周りには、刺激的なお友達が偶然寄ってくるのですね。

白河:そうみたいです。それから2年ほど経って、酒井順子さんの「負け犬」ブームというのが来て、ああやっぱりこういう時代だよね、と。私は当時は雑誌記者だったのですが、そのあと山田先生と一緒に『“婚活”時代』を書いたことによって、私は一フリーランスのライターから取材される側にもなりました。そのまま婚活コンサルタントになってという道を勧める人はたくさんいたのですが、次第に女性誌の取材などで、「どうすれば結婚できますか?」と聞かれることに飽きちゃって(笑)。 先ほど聞かれたコツというのが一つあるとしたら、私は常に構造に興味があるんです。その人個人が結婚できるかどうかにはそんなに興味がなくて。「結婚できなくさせている社会の構造は何か?」「ならば、結婚したい人ができるようにする仕組みはあるか?」ということのほうにすごく興味があります。

福田:構造に注目するわけですね。

白河:そうです。「婚活」が出て、面白かったことがありました。例えばNPOの人たちが社会を変えようとする時は、社会の節目になるような、気になるワードと共に仕組みも出すじゃないですか。でも「婚活」の場合、山田先生は大学の先生で、私はフリージャーナリストだったので、仕組みについては考えていなかったのですね。私たちが書いたのは、「これからは活動しないと結婚できないよ」「活動とはお見合いのことではなくて、今まではぼーっとしていても相手が来たけれど、もうそういう時代じゃないから、自ら動くか動かないかにかかっているんだよ」ということ。 それを言いたかったのだけど、その後「婚活」ビジネスの人たちがガーッと乗ってきて、婚活=婚活ビジネスを使うことみたいになったんです。私たちが意図していたこととは違うことが「婚活」と言われて、「いい男はちょっとしかいないから。年収600万以上の人は0.5パーセントだから、早くいかなきゃ!」という捉えられ方になってしまった。結婚の構造自体、男性大黒柱型結婚が今の社会ではもう限界だから、そうではないことを考えないと駄目だよ、ということをいったはずなのに。みんながそこに殺到して死屍累々みたいな……。逆によくなかったのではないかと。

福田:でも、その言葉の力や、著書の力があったから、行動変容が起きたとはいえますよね。

白河:それはありました。後々になって、女性活躍の取材で企業の課長クラスの女性にお目にかかったら「私は『“婚活”時代』を読んだから、結婚できたんです。今は1児の母です」と言っていただけたりして。あの頃は、「男みたいに働け」「仕事以外のことは考えるな」とみんなが言われていたから、10年前は気が付かなかった、と。

福田:結婚したいなら活動せねば、とね。

白河:今だったらセクハラといわれてしまうけど、「上司があの本をくれた」という人もいましたね。その上司たちは、男性並みに働く女性の部下を初めて持ったわけですよ。仕事はできるけど、気が付いたら誰も結婚していないし、この子たちは大丈夫かな?と、親心で本を渡してくれたと。そういう意味では書いてよかったと思う本の1冊です。山田先生が私を指名してくださったおかげですよ。それがなかったら、私はずっと取材する立場だけだったと思います。

福田:何がきっかけになるか分かりませんよね。つまり白河さんは、変容するために行動するし、常に構造に興味がある、と。

白河:そうですね。その人の個人的なことではなくて、「これは構造の問題なのではないか」というところに常に興味があります。そのころ婚活ビジネスはいくつかあったのですけど、取材をしているのは私だけでした。人と人をマッチングする仕組みってどうなっているのだろうと興味を持って。でも、それからまた飽きてきてしまい……。そこで出会ったのが、福田さんの会社スピーディの取締役をされておられる、経営ストラテジストで作家の坂之上洋子さんです。「女性誌に『どうしたら結婚できますか?』と聞かれることに飽きました」「少子化対策とか間違っていることが多いから、政府にきちんと提言をして、大学で若い子に教えたいんです」と話したら、ブランディングに快諾していただいて、2年で本当に政府の委員になりました。そして、非常勤ですが、大学でも教えるようにもなったのです。ブランディングの重要性も知りました。

福田:いやあ、面白いです。構造を見て気が付いて、そのことをちゃんと表現できる知性が、白河さんのすごいところですね。読書メディアが廃れるとそういう知性も輩出されないですから、知の在庫が減ってきていると思うんですね。ホリエモンも落合陽一さんも素晴らしいし面白いし、ユニークな人だと思いますけど、ああいう本ばかり並べられると本屋へ行く気もなくなってしまう。 やっぱり本は、1万人でも深く刺さるものが欲しいし、ネットが便利というけれど、検索しても出てこないことだらけ。検索に全てがあるなんて思うのは勘違いですから。だから、今こそ出版事業を本格的にやるべきだし、日本の1億2000万人だけじゃなくて、英語圏で考えると30億人にリーチできるわけだから、日本発の面白い知を世界中に紹介したいと思うんです。そうでなければ、日本はやられっぱなしですよ。ユニークなものをいっぱい持っているのに。

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