『千里を走る中国取材の道!』(対談 福島 香織 氏 × 福田 淳 氏) | Talked.jp

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対談  福島 香織 氏 × 福田 淳 氏

ブログで告発し、ますます窮地に

福田:そんなすごい環境も知っていて、ベテランとして10年いて、突然ビザを発給してくれない、とか言われたら、ある種の恐怖は感じますよね?

福島:パニックですよね。どうしようと思ったときに、私が取った行動が・・それも悪かったってみんなから言われるんですけど、つまり、ブログに書いちゃったんですよ。中国はビザを発行してくれない、と。

福田:欧米系ですよね、果敢に。

福島:欧米人の発想だと、ニューヨークタイムズも、今、「ビザ発給しないなんて、おかしいだろ」って中国とけんかしていますけど、戦うんですよね。でも、日本人は、今までそういう事態になったときは、黙って水面下で交渉して何とか発給してもらうような工作をしてきたわけですよね。結局、そういう意味では、私はまだ“中国しろうと”っていうか・・。

福田:欧米系だったんですよ。

福島:そうなんです。いわゆる建前を言うだけの欧米系だったんですよね。「メディアなんだから、事実を書いて何が悪いの」っていう開き直りもあったし、「ビザを発給しないなんて、これは脅しじゃないか、メディアに対する報道の自由の妨害じゃないか」みたいな建前論があったからこそ、ブログに書いちゃった。一応、上司には相談したんですよ。「こういう状況で、ビザが出ない」って訴えたんです。そしたら、上司は「じゃあ、日本に帰ればいいじゃん」って言ったの。

福田:それも、キレますね。

福島:「産経新聞の記者が強制退去されるのは31年ぶりだな」とか、おもしろがって言うわけですよ。今振り返ると、それは「いずれビザも出るだろう」と踏んでいたからなんだけど、私は「中国はもう出さないんじゃないのかな」って、本当に心配になったんですね。2007年のことですから、あと1年で北京五輪があるわけです。当然、五輪までいたいと思っていたので、出さないって言われて腹も立ったし、会社は会社で擁護してくれないどころか、「いいんじゃないの、日本に帰れや」みたいな感じであしらうし・・。で、産経ってわりとインターネットの取り組みが早くて、当時、記者が自分のブログで発信できるようになっていたので、「いざ!」という勢いで、全部書いちゃったんですよ。「しかも上司は『31年ぶりの強制退去だ』とか言って喜んでいるし、もうどうしたらいいやら」みたいなことまでバラてしまって、中国の逆鱗に触れたの。えらいことになったんですよ。産経の総局を取り潰す、みたいな圧力まで当時は受けました。産経側にしてみれば、悲願の中国総局を五輪前に畳まされ、現場から撤退させられるというのは、新聞社同士の競争の中でも徹底的に不利なわけですよ。北京五輪取材できない、こんなことがあってたまるかって。だから、みんな私が悪いんです。すみません、私が悪うございました。

福田:ってなっちゃいますね。組織の論理で。

福島:ですよね。まぁ、結局、当時の総局長が、かなり中国側との人間関係ができていて、「今ここで嫌がらせみたいに福島を日本に帰したところで、五輪前の中国のイメージに傷がつきますよ」みたいな忠告を中国側にしたんだと思うんですよ。12月31日、大みそかの日にようやくビザが出たんです。あと1日で切れるっていうギリギリで。 でも、この件で私がおとなしくなったかって言うと、その翌年に、チベット問題とか起きれば、やっぱり書くんですね。当然、またいろんな圧力が来て、結局「お前は五輪が終わったらすぐ日本に帰れ」みたいな。とりあえず、中国は五輪まではいさせてくれたけど、終わったらすぐ帰れ、みたいな状況になったわけですね。

日本はアメリカの付属物?

福田:ワンダーフォーゲル部での中国に対する憧れから始まり、実際に中国に入って、内情を知って、愛憎ないまぜじゃないけども・・・。

福島:いやまあ、やっぱりおもしろい。こんな国がありましたか、みたいな。多分、ロシアもそうだと思うし、そんな国はたくさんあると思うですけれども、自分が初めて行った外国がそういう国だったっていうのが、とってもおもしろかったですね。例えば、今まさに、日本メディアのいくつかは、ビザ出してもらえない状況にあるんですよ。メディア見ていたらわかると思いますけど、中国に新しく赴任する人がいなくて、全然人事異動してない社が何社かあります。もちろんアメリカ人に対してもあるんですよ、ビザを出さない嫌がらせっていうのは。中にはアメリカに帰らされた人もいるけれども、最終的には出してもらったんです。なぜなら、アメリカは出してもらえないことを、ちゃんと公式に発表して、「中国は報道の自由を妨害している」みたいな世論を作った後に、副大統領バイデンが、直で習近平と話をしたんですよね。要するに、トップが話をしたことでビザを出すっていう妥協案が両国の間で出たわけですね。ところが、日本の場合は、実際に何社かに取材ビザが出てない状況があったときでも、公にもしないし、新聞社同士で、例えば新聞協会が「これは取材妨害でないか、報道の自由に反するのではないか」みたいな声明を出すこともないし、政府が介入して、メディアにビザを出させる交渉もしないんですね。まぁ、実際のところ、日中関係が悪いので、安倍総理だろうが、高村さんがだろうが、誰が出てきても打開にはならないとは思うんですけれども。

福田:それは安倍さんそのものの、認識の弱さもあるかもしれませんけど、外交問題に対してインプットする人たちのレベルも落ちているんでしょうか?

福島:やったところで、同じようにはできないとは思うんですよね。つまり、中国がアメリカの副大統領が直に会ったら、ちょっとは妥協しようかな、と思うのが、アメリカっていう国の国力なんですよ。そこがパワーなんですよね。