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心の安らぎを配信したい
オンライン坐禅へのチャレンジ

お寺が改革する”デジタル・ウェルビーイング”の世界   Talked.jp

福田:そして東凌さんが始めた、オンライン坐禅会『雲是(うんぜ)』(*1)についても、ぜひ伺いたいです。やはりきっかけはコロナですか。

伊藤:そうです。始めたのは2020年の4月ですから。

福田:早いですね! 日本企業が「Zoom使わなきゃ」とか騒ぎ始めた頃ですよ。

伊藤:コロナが決定的な理由にはなりましたけれど、その前から準備があったのも事実です。 2年ぐらい前から、お寺の文化も“個の時代”になっていくなとは思っていたんです。お坊さん個人が、一人一人が何を発信するかによって共感を得たり、人が集まったり…という形で、それをオンラインでやっていくべきだろうな、と。そのときの主な柱は「オンラインでつながって行う坐禅」だったんですけど、当時はぴかぴか光るパソコンのスクリーンを見ながらみんなで坐って、「さぁ、いい感じになれましたか」みたいな時間を過ごすことには、一体どういう価値があるんだろう?と、いまひとつ納得がいってなかったんです。

福田:今でこそ「オンラインサロンなんて普通」になりましたけど、2018年とか、2年前ならそうでしょうね。

伊藤:回線が途切れるとか、単純に光の刺激をどう抑えるか、といったことにこだわってしまったといいますか……。でも、2020年4月にカリフォルニアで大きな山火事が起こったじゃないですか。私にはアメリカ人の友達が結構いるのですが、本当に何かしないと、という危機感が沸き起こりました。せっかく日本の文化で、心の安らぎの空間を配信することができるんだったらやろう、クオリティーがどうのとか、四の五のいってはいられない!と。今は週1ペースぐらいなのですけど、その時は週5ぐらい配信しました。

福田:時差は、カリフォルニアならカリフォルニアの時間に合わせて、ですか。

伊藤:はい。日本の朝であればカリフォルニアは夕方、ニューヨークは夜ぐらいですね。それだとヨーロッパは夜中の1~2時になってしまうので、日本の夕方やって、ヨーロッパにも届けるともう週5回ぐらい。とにかくやって広げて、つなげようと。時差の問題もありましたけれど、先述のようにクオリティーに対して不安と疑いがあったので、やり続けて確かめたい、という気持ちでした。坐禅自体の、質が変わっていかなければと思っていたので、やりながら、どうやって変化させるかを実験したんです。

福田:その実験というのは、どういうふうに?

伊藤:リアルな坐禅の場合は、「鳥の声を聞いて、体の鼓動を感じましょう」という誘導があれば、それだけであとは場の力で、すっと入れるものがあります。けれどオンラインの場合、それは全然通じない。そこで気付いたのが、禅的な思考です。みんなで一つのテーマに対して、できるだけいろいろな角度から考えていただく時間を共有することで、いいメディテーション、いいマインドフルネスになると思いました。

福田:本来はライブで、自然と一体になって感じるものが、オンラインではみんなの環境も違う、と。けれどそこは精神的なコンセプトを基軸にして、オンラインでのやり方を開発していった……ということですね。何事も初めてのことをやるといろいろ言われがちですが、オンライン坐禅の取り組みの場合は、そういう外部からの反発のようなことはありませんでしたか?

伊藤:たしかに「あれをやってどういう意味があるの」とか、「それって大変なだけじゃないの」という声はいただきましたが、「そんなこと全く価値はない」というような否定的な声は、じつはあんまりなかったと思っています。

福田:現代なんですね、そこは。

伊藤:言い方が難しいのですけれど、コロナ禍だったからこそ、迷っていたこと、何かをシフトするチャンスという空気があったのかもしれません。「心の安らぎの時間、空間を共有する」という絶対的なテーマさえ外さなければ、コロナ禍という今は、チャレンジしたほうが価値が出る、と。おそらく多くの僧侶の方もそう思っていただけたのではないでしょうか。 それまでは躊躇もあったと思いますが、Youtubeを始めた僧侶もあの時期結構いましたからね。

(*1)世界とつながるオンライン坐禅会『雲是(うんぜ)』。1回45分のセッションで、禅僧の指導と起業家の司会の元、世界中の参加者とともに瞑想と多言語による議論を行う。
オンライン座禅会 雲是
https://sleeep.io/experience/cloud/sitting

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