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アドバタイジングからブランディングへ Talked.jp

インターネットを通じて、公然と羞恥プレイをやっている

福田:インターネットによって個人が強くなった。この傾向が続くかどうかは別にして、ツイート一つで世間をさわがせたり、企業を潰したりすることが出来るようになっちゃった。『ハウス・オブ・カード』のあるシーンの中で、若い女性記者がボスの編集長に「この特ダネを世間に知らしめましう」ってお願いしたら、ボスの編集長が事情があって「やめろ」って言ったあと、その女性に酷いパワハラ発言をしてすごむんです。そしたら記者は「今の暴言、Twitterで流しますよ」って言われても、ボスは「なんだ、それ? やってみろよ」って返したら、次の日、「編集長、暴言でクビ!」って見出しになっている。
 その一方で、誤った認識が個人の投稿からメディアを通じて広がって、「炎上」するケースも出てきています。

柳瀬:火のない所に煙が立つ恐れがある。これはコミュニケーションがメディア化するというインターネットの特徴のおっかない側面です。私たちはSNSで気軽に自分たちのプライバシーや感情を吐露している。それを他人が覗き見している。誰かと「イェーィ」とかってやっている写真だって、フィルムの写真しかない時代たったら、2、3人に配って終わりなのが、ネットで公開した途端、世界中に流れる可能性がある。

福田:ばかな写真を何千人かに晒している。それが、だんだん常識化しているわけですね。

交流する場であることがオフィス収入を上げる

福田:これからの企業のブランドマーケティングはどうあるべきか、デジタルメディアとどう付き合っていくか、コツというか、流れについてお聞かせください。

柳瀬:今回、AppleはiPhoneの発表をアメリカの本社でやりました。巨大な円盤みたいにガラスでぐるっと囲まれたあのオフィスで。あのオフィスが象徴的なんですが、アメリカのインターネットを牽引するトップ企業のオフィスには「フラット」「ネイチャー」「アート」という共通点がある。具体的に言うと、Amazon、Google、Apple、Facebook。まずオフィスが入っている建物がフラット。街のかたちになっている。平面方向に広がっている。それから、ネイチャー。Appleの本社は郊外にある。Facebookのオフィスも、植物がたくさん植えられている。Amazonに至っては中心部にアトリウムがある。グラスルームをつくって、熱帯植物園みたい。そして、各社ともアートをたくさん購入して、オフィス内に飾っている。

福田:杉本博司さんの作品とか。

柳瀬:デジタルの最先端の会社ほど、さっき言ったような“拡張する前の人間の五感”に訴えるものをすごく重視している。身体的にフラットな人がアトランダムに出会うチャンスを増やす。そのためにはフロアを一緒にしたほうがいい。人間の動線を考慮しているんです。結局、イノーベーションの最初のセンサーになってくれるのはアーティストなんです。だから、人間の五感に一番訴えかけるアートを重要視する。ネイチャーを重要視する。でも、日本は大企業もベンチャーも、超高層ビルの中に鎮座している。
 日本のダウンタウンとして元気がいいところは、その大半が戦後の闇市や色街だったところが変化した街だったりします。新宿東口だったり、新橋だったり、神楽坂だったり、あるいは門前町とか浅草など、寺町だったところ。上野、下北沢、池袋は闇市ですよね。
 ところが、高度成長期の日本は、間違ったまちづくりをしちゃった。超高層ビルを林立させることがまちづくりと勘違いしちゃったんですね。典型が新宿西口のビル群です。手前の駅前にあたるヨドバシカメラのあるあたりは闇市だったので、いまも平場が街になっていて元気がいいですけれど、淀橋浄水場あとを開発した新宿西口のビル群は、まず1階部分が街になっていない。それぞれのビルが道路で分断され、しかもビルの1階までが歩道から遠い。そのうえ、エントランスばかりが立派で(ダサいんですけどね)、なんのお店もない。つまり、2階からうえの部分を取り除くと、新宿西口はいまだにほとんど何にもないんです。だから、オフィスに通うひとたちを除けば、ホテルの利用者以外に西口に行くひとはいない。皮肉にも、新宿東口の歌舞伎町やゴールデン街を見てください。かつての青線街だったところは、平日も休日も、多種多様な人たちでごったがえしています。海外の旅行者たちからも大人気です。超高層ビルはないけれど、1階部分を見れば、超高層ビル群の廃墟ぶりと対照的。そう、「街は1階がすべて」なんですね。
 でも、なぜか日本でまちづくりをする人たちの多くが、「街は1階がすべて」という絶対に崩しちゃいけない大前提を無視してしまった。新橋の汐留ビル群と、おなじ新橋駅前の飲み屋街。新宿とおんなじ構造ですよね。六本木でも、湾岸でも、おんなじことが起きている。

福田:なるほどね。

柳瀬:日本はオーナーがビルの1階、2階を自分が威張る場所にしちゃう。だから、立派なエントランスをつくるんだけど、自宅の門じゃないんだから、どうでもいいじゃないですか。オフィス街って、週末はゴーストタウンですよね。

福田:コミュニティじゃないですね。

柳瀬:町にする=メディアにするってことですね。

福田:弊社はビルの中にあるけど、緑とアートの点では多少はましかな。

柳瀬:川っぺりで、景色いいでしょう、最高じゃないですか。

福田:最高なんですよ。

柳瀬:で、築地の手前でしょう。ただ、周りとつながってないですね。このビルをリプロデュースしたら、すごくナイスな場所になると思います。

福田:ある新興スタートアップ企業に、どんなオフィスがいいのか、相談されたときに、「今だと、百貨店なんか面白いんじゃないか」って提案したんです。百貨店って人が来るから、コンシューマー(消費者)のことをわかっている会社に見える。それが無理だったら、喫茶店の中に、オフィススペースがあるとか、やっぱり人の動線がある所ですよね。そういう意味ではコミュニティーをつくるっていうことがオフィスにとって大事です。

柳瀬:百貨店は1階からお店になっているから、ちゃんと街の中心になり得る。だから、百貨店の構造を残したまま、超高層ビルにする、なんていうのはありですよね。

福田:僕も、「高島屋の8階ぐらいに新しいオフィスを造ったらどう?」って言ったんですけど。それで、ちょっとアートを置いといて、奥はオフィスになってるとかね。

柳瀬:さっきの本屋と同じ発想で、自分たちが交流している場所自体がオフィス収入を上げるって考えるなら、百貨店の売り場を小売業という側面のみならず、そのオフィスビルの単価を上げる「集客装置」として利用する。低層階を百貨店にして、高層階段をオフィスにする。クライアントは、消費者を相手にしている企業。彼らは、毎日、マーケティングができる。リアルなお客さんと接することができる。

福田:今年の5月のミラノサローネの展示は、ほとんどボタニカル(緑)だったようですね。

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