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本がデジタルと違うのは、読んだ後の達成感

柳瀬:えーと、会社の外をうろうろしているからです(笑)。

福田:僕と同じだ(笑)。社業に関わっていること、ほとんどない。自分が何も売り上げに貢献してないことに気が付いて、もうそろそろおしまいだなと。

柳瀬:あと割とやるのが、1駅、2駅余分に歩きます。

福田:僕も1駅分くらいは歩いて帰ります。

柳瀬:運動のためじゃないんです。歩くと、さっきの町の話とかリアルにわかる。

福田:電通にBチームっていう組織じゃなく任意のチームがあるそうです。検索に乗ってない街の一次情報を報告しあう会らしいのです。そういうのを電通がやってるのは、偉いなと思いますよ。それに比べて、IT企業の若い人は駄目ですね。「ミッションに向かって売り上げつくれよ」って話を聞くとね。

柳瀬:なるほど。

福田:サラリーマンならいいんですけど、ベンチャーの場合つぶれるじゃないですか。この間久しぶりにメディアドゥのCEO藤田さんに会って新オフィスを見せていただきました。皇居の前の歴史あるビルを美しくリノベして、空間設計もアートも素晴らしかった。まさに尋問的なセンスがある経営者です。
僕は、幼少期から本読むの大好きですけど、読んで本の歴史によって、ある程度自分の人生決まる部分がありますね。先日、神曲「ダンテ」にまつわるアートの仕事をやったときに、『神曲』読んでなかったんですよ。

柳瀬:なるほど。そういう本ってありますね。

福田:ああいう作品って、中学のときまでに読まないと、多分一生読めない。だからアーティストに言ったんですよ。「今から仕事だって読んでも、多分エモーション育ってこないんで、ダンテの仕事は自分には難しいと思う」と。
やっぱり経営者は、アートと文学をこよなく愛してないとイノベーションは起こせないなと思いました。

柳瀬:一方で、進化生物学や大脳生理学のような、生き物としての人間のことを文系理系問わずにもっとみんなが勉強しておいたほうがいいんだけど、ついついどちらかに偏っちゃうんですよね。宇宙から行動経済学から漫画まで、なるべく乱読したほうがいい。勉強のためじゃなくって、単純に面白いから。

福田:お金の儲け方とか、そんなのが多いですよね。僕もはやったものも読んだりしますけど。例えばホリエモンとか、すごい批判的な目で読むと、いいんですよ(笑)。 この間は若者に「高くて美味しいレストランに行っちゃ駄目」って言ってましたよ。「吉野家がまずくなるから」って。それはそれで面白いし、若者は皆、「いいね」「いいね」ですよ。だけどホリエモンご本人はそんなことないでしょう。人間生まれたからには、安い店、高い店、両方知って評価できればそれがいいわけで、そう言われたときに真に受けるか、嫌と思うかによって、見方が変わりますからね。

柳瀬:もう全然違いますね。

福田:かつて携帯小説を手掛けていたとき、スッカスカの改行ばっかりの6万字で1冊できたんです。6万文字って、本当にみんな読めるのかなって。だから8万文字から10万文字ぐらいで、三つくらいのことを言う本をつくって、読んだ気にさせたんです。速く読めることによって、「俺、読書感ある」って本にしたいと。あまり深くしたくない。

柳瀬:それはすごく大切なポイントです。短くても構わないんです。本がデジタルと違うのは読んだ後の達成感がある。最後まで読み切ると、なんかやり遂げた気がするんですよ。

福田:イギリスでゲーム会社やっている連中が作った本のアプリ、Facebook認証をしながら読書するんですよ。まず「自分の友達何人がこの本を読んでいました」と言うんですね。ある箇所の感想を書こうとするとFacebook上の友達が、同じ箇所について何か書いてる。読もうと思ったら、裏にそれが書いてあるんですよ。2カ国語を解するみたいなものですね。読書の体験をライブ化させようという試みなんですが、ちょっとゲーム感覚で、デジタルっぽくて面白いなと。本来、読書とか映画って終わった後でないと、コミュニティーに入れなかったじゃないですか。でも、今ってあまり画館で観ないらしいですね。女の子なんか、繰り返し『セックス・アンド・ザ・シティ』とか見ながらワイン飲んだりしている。これって、映画のコミュニティー化ですよね。新しい映画の楽しみ方。
男って狭いから、映画ファンだったりすると、タイトルから字幕まで黙って静かに見なきゃ駄目ってなりがちですが、今、Netflixなんかだと、2時間映画も頭の30分見て眠くなったら寝ちゃう。続きは移動する電車の中で見るんです。1本の映画が自分の中でテレビシリーズ化しちゃっているわけですね。当然、こういう視聴スタイルが定着したら、映画作りも変わるだろうし。ネットメディアが定額制になったばかりの時に、インフラの制約があるから、3分のウェブアニメとか盛んに作りましたけど、ああいうのもすぐ廃れていきましたね。

柳瀬:その場しのぎですからね。

福田:この間、Netflixが「新作で日本円にして1000億円相当を投資します」ってアナウンスでマスコミがワーッとなりましたが、テレ朝だって一昨年ぐらい年間1200億円、フジも800億円ぐらいかけているんです。業界わかってる人から見れば、Netflixってなんて金かけてないんだと。

柳瀬:逆にわかっちゃう。

福田:世界中で1000億とかって。むしろ作り方がうまいのかなとかね。

柳瀬:実はものすごく効率いいことやっているんじゃないかって話もある。

福田:だから、なんかちょっとコンテンツ至上主義と言いますけど、最初おっしゃったメディアのあり方とか、配信の仕方みたいなところに、これからの新興勢力の工夫があるのかもしれませんね。

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