「ポイ捨てゴミ」と戦うベンチャー

「ポイ捨てゴミ」と戦うベンチャー(後編)

構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2018年3月21日

小嶌不二夫氏(写真右)

株式会社ピリカ 代表取締役。1987年、富山県生まれ。大阪府立大学工学部卒、京都大学大学院エネルギー科学研究科在学中に世界を放浪。道中に訪れた全ての都市で大きな問題となっていたポイ捨てごみ問題の解決を目指し、2011年11月株式会社ピリカを創業。ピリカはアイヌ語で「美しい」を意味する。世界80ヶ国で利用され、累計7,500万個のごみを回収しているごみ拾いSNS「ピリカ」や、人工知能を使ったポイ捨て分布調査サービス「タカノメ」を通じて、ポイ捨てごみ問題の根本的な解決に取り組む。2013年、ドイツで行われたeco summit 2013で金賞を受賞。2018年、一般財団法人日本そうじ協会主催「掃除大賞2018」において環境大臣賞を受賞。
http://corp.pirika.org

福田 淳氏(写真左)

ブランド コンサルタント。1965年、大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。衛星放送「アニマックス」「AXN」 などの立ち上げに関わったのち、 2007年にソニー・デジタルエンタテインメント創業、 初代社長に就任 (現 顧問)。 2017年、ブランドコンサルタントとして独立。NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、 文化庁、経済産 業省、総務省などの委員を歴任。 2017年、新しい世界を切り開 くリーダーとして、カルティエ提供「チェンジメーカー・ オブ・ザ・イヤー2016」を受賞(日経BP)。近著に『SNSで儲けようと思ってないですよね?: 世の中を動かすSNSのバズり方』(小学館)がある。

「投入努力量に対して充分なリターン」がなければ駄目

小嶌:起業する前、2010年ですが、23歳で世界一周をして、帰国後1年ぐらいして起業しました。でも今のピリカのアプリは、旅から帰った10日後に作り始めているんですよ。

福田:まだ起業前プロローグは続いていた(笑)。また、なぜそこで世界一周されようと?

小嶌:旅をする中で、自分が最初に取り組む環境問題をどれにするか決めようと思っていたんです。

旅に行く前、もう企業に就職する道はないな、自分で事業をやるしかないとなったんですが、環境問題の何をやりたいのか、すごく悩んでいたんですよね。そもそも本当に環境問題をやりたいのかどうかも含めて、実際に問題を目の当たりにしてどう思うか、旅に出て検証したいと。

福田:実際に世界を見て、どうだったんですか。

小嶌:やっぱり環境問題がやりたいな、めちゃくちゃ面白いなと思いました。旅の間、メモ帳に100個ぐらいアイデアを思い浮かべながら書いて、その中にはポイ捨てごみの問題も含まれていました。でも当時、僕は大きな勘違いをしていたんですよ。旅の間に、「間違いなくこれだ!」と、稲妻的な衝撃が落ちてくると思い込んでいて。

福田:でも、稲妻は落ちてこなかった。

小嶌:そうなんです。それで帰国する飛行機の中で、ヤバイ!と思いました。お金も時間も使って旅をしたのに、何も稲妻が来なかったと。メモの100個のアイデアですら、どれも微妙に思えたりしてきて。もうニートな状況が2年ぐらい続いているわけで、本格的にやばいと焦った僕がどうしたかというと……。取りあえず現実逃避で、好きな女の子とデートに行きました。

福田:それは、いい判断です(笑)。

小嶌:その子は旅の前からずっと好きだった子で、じつは一回フラレているんですよ。でも当時の自分って、頭の中でごちゃごちゃ考えているだけで、実際には全然前進できてないし、何もできてないじゃないか!と、とにかく恥ずかしかったんです。別にその子とは付き合っていないんですけども、彼女にふさわしい男にもなってないじゃないかと思って。しかもその彼女が、旅の前は「ドクター過程まで進む」と言ってたから、あと3年は猶予があるぞと。「3年かけて落とそう!」と思っていたんですけど、その時のデートで「3カ月後に実家に帰る」って聞いて。「もう3カ月しか猶予ないやんか!」となって、どうしても自分のステータスを「ニート」から「起業準備中」に高めたかったといいますか。

福田:大事。大事ですよ!

小嶌:自分への怒りと焦りとでうわーってなって、無理やり、メモ帳の中で良さそうだったアイデアを結び付けてつくったのが、ピリカというアプリの原型なんです(笑)。企画書に起こしてみたら、「あれ、これ意外といけるんちゃうか」ってなって、それを友人に見せてフィードバックをもらいながら、これをベースにちょっとずつ良くしていこうとなって。

福田:ちょっとだけ話が戻るんですけど、僕も世界中を旅して思うのは、旅をしている間ってインプットだけなんですよね。

小嶌:そうですね、たしかに。実際そうでした。

福田:アウトプットなしで、全然いいんですよ。アウトプットがある旅ってないですよ。それは旅の体験をしてないことになるから、むしろ、あったら駄目なんです。「アイデアはどこから降りてくるのか」みたいな話はよくあるんですけど、「稲妻が落ちた!」みたいなことが起きている人は、ほぼないですよね。雑談とか、心の隙間があるときに思い浮かぶことの方が圧倒的に多いです。僭越ながら僕がいつもアドバイスするのは、「自分の本筋とあまり関係ない人と話した方が、アイデアが湧くよ」ということ。

そして、好きな女の子をつなぎ留めるために、そのメモから起業しようと奮起したのは、ものすごくいいモチベーションだったと思いますよ。

小嶌:旅のアウトプットは、あとから来るものでよかったんですね。僕、投入努力量に対してリターンが大きくないと、いろいろ納得できなくて。

福田:一石五鳥理論の人だからね(笑)。

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