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持続可能なしくみに必要な、「ライブ感」「つながり感」「分散型」

「ポイ捨てゴミ」と戦うベンチャー Talked.jp

小嶌:アプリ「ピリカ」の最初の開発メンバーで、エンジニアの人が書いた修士論文があるんです。じつはその論文が基になって、ピリカの根幹があるんですけども。その修士論文は、人間にいかに環境配慮行動を起こさせるかっていう研究で、すごい独創的で面白かったんですよ。当時のiPod touchを被験者に持たせて、Bluetoothで通信して、部屋中にiPod touchを散りばめるんですよ。

 で、水道の近くに行ったらポンと通知が来て、Bluetoothに反応して、「節水をしましょう」というメッセージが出るんです。エアコンの近くに行くと、「設定温度は28度にしましょう」と出る。通知が出るだけだったら、新しくも何ともないんですけど、彼はその時に「周囲の人も、そういう活動をしていますよ」っていう情報をタイムラインで見せたんですね。つまり、どういう情報を見せれば、その人の環境配慮行動が起きやすくなるのかというのを検証していったという。

福田:「人のふり見て、わがふり直せ」じゃないですか。

小嶌:そう、それが面白かったのが、人は基本的に二つの要素に注目するという点です。まず一つは、身近な人の活動を真似る。全然知らない赤の他人よりも、友達とか先輩とか、家族の活動を真似やすい。もう一つ面白かったのは、絶対的な距離に影響があって、全然知らないアフリカの活動よりも、同じ地域内、たとえば京都市左京区内とか、近所の赤の他人の活動を真似るんです。なので、そういう情報を意図的にタイムラインに増やしてあげると、環境配慮行動が長続きしやすかったという研究結果が出まして。

福田:面白い!

小嶌:なので、ピリカというアプリには地図があって、タイムラインがあって、今その瞬間に同じようなことをしている人がいると感じられるし、地図で近くの人がごみを拾っていると感じられるようにしてあります。そうすることでごみを拾いやすくなるとか、活動を真似しやすくするような配慮をしているんですよね。

福田:ライブ感があって、つながり感があって、分散型行動である。つまり、アプリ「ピリカ」は、ひとつのメディアですね。仮想通貨の「ブロックチェーン」のマイニング*と一緒で、「みんなが見ているから、ズルは出来ない」というしくみと同じですね。「中央集権から分散型へ」というのは、僕はここ最近の重要なキーワードだと思っているんですが、ピリカもその流れを継いだシステムで先駆的だったんですね。
ただ、「ごみを拾いましょう」というだけでは、活動のテンションが途切れてしまうことが多くて、せっかくの善意の無駄遣い…と言ったら語弊があるかもしれませんが、そういうことが多すぎると思うんです。今、標語ではやたらと「持続可能な社会」とか言うんですけど、しくみがそうなってないじゃん!みたいなのが多い。だから、仮想通貨のブロックチェーンのしくみのように、「ごみを拾う」という行動に対して、誰かの目がある同時代性、ライブ感を残すしくみが、みんなの善意を途切れさせないポイントではないでしょうか。

小嶌:たしかに。

福田:とくに、ポイ捨てごみを拾うという行為は、街に出てやるものだし、非常に現実的なことですよね。そこに、今や街に持ち出すツールとなったスマホのアプリが活躍するとなると、やっぱりスマホの発展って、すごいことだったんだと思いますね。次世代のツールとしては、開発余地がまだあるもんじゃないかなと。

小嶌:例えば家庭内で、親が子どもに「ごみを捨てなさい!」とくり返し言ってもやらないとか、ありますよね。それを思うと、人間って基本的に、2000年くらいではものすごい進化はしないというか、生物学的にはあまり進化していないと思うんですよ。2000年前の人間を捕まえてきて、今と同じように教育して育てたら、同じような人間が出来上がると思うんですよね。つまり、生物学的には、何ら別に進歩しているわけじゃないし、なんか賢いわけではないと。
ただ、なぜ2000年前の成人と今の人間とで知識量が違うかというと、人間は社会の方を進化させて、その社会から教育を受けるようにすることで、自分自身を進化させてきた気がするんですよ。だから、そういう意味で言うと人間の行動とか習慣とか、変わらないものをルールにしたり、しくみをつくって変えていくのがいいアプローチではないかなとと思っていて。

 ピリカでいうと、僕らが変えたかったのは、日本人特有の「いいことをひけらかさない」文化だったんですね。もちろんそれはある面では美徳なんですけども、ひけらかさないことによって、いいことに気付く人が減ったり、影響を与える人が減ったりしてしまうのは大きなマイナスで。それを適切に知ってもらえると、もっといいことが伝播していくはずだし、解決される問題の総量が大きくなるはずなんですよね。

福田:小嶌さんの思いは、ずっと一貫していますよね。部活や大学、インターンで体験した「言わないでも分かるだろう」的な空気、文化の違和感みたいなものを、可視化することをしたいと活動されている。そして、スマホをはじめとするインフラが整ってきた時に起業されて、やっと社会の方が小嶌さんの活動に追いついてきたのではないでしょうか。

*マイニング…仮想通貨のブロックチェーンの整合性を保つためのシステム。 仮想通貨の取引台帳データの整合性と追記を行うことで通貨の信頼性を保つ重要なシステムを指す。

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