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人生初の大人買いは『あしたのジョー』

読書でしか、得られない価値  Talked.jp

福田:えぇ~! ツケ(笑)。馴染みの本屋さんがあったんですね。

幅:そうなんです。出身が愛知県の津島市という田舎町なんですよ。名古屋の西側の津島っていうんですけど、同郷の人としては、金子光晴という破天荒な詩人がいたり、野口米次郎という、イサム・ノグチのお父さんがいたり。

福田:そうなんですか!

幅:あとから知りましたが。ともあれ津島の、名鉄津島線青塚駅の、駅前の本屋くらいしか書店もなくて、そこが馴染みのお店でした。コミュニティが小さいと何がいいかって、店主も奥さんも僕の顔を知っているし、親もそれがわかっているし。小さなコミュニティなので、子どもの僕が「これください」と言えば、「はいはい」と。

福田:伝票書いて。バーのツケ、的な感じですね(笑)

幅:月末に母が払いに行く…みたいな。そこの本屋がまた特殊で、パタパタパタパタはたきをかけてお客を追い出すということをしない、牧歌的な店でした。夏の暑い時は、小学生が涼みにドワーっとやってきて、床に座ってドラゴンボールを読みまくるような。そんなに大きな本屋ではなかったんですけど、一応雑誌から漫画から文学から、児童文学、絵本、自然科学とか全ジャンルありましたから。そこで自由に泳げて、本も選べた。自分が親になってわかりましたけど、子どもって意外に、親の顔を見て本をねだりますよね。

福田:わかります! わかります!

幅:ねだる時も、こういうのを手に取ったら、「こういうふうに思われるかな?」とか、「褒められるかな?」とか。

福田:あぁ~、あったなぁ。小6か中1の時に僕にもありました、それ。余談になって申し訳ないですけど、僕の時代はSFの第2ブームで、福島正実さんが初代編集長だった『S-Fマガジン』を読んでいたんですね。SFも、観念的なものから簡単なものまでピンキリあるわけなんですけど。マイケル・クライトンが映画化した『コーマ』っていうミステリーサスペンスが早川書房から出ていて、こんなぶ厚くて。当時、赤川次郎とか星新一ばっかり読んでる小学生から言うと、めっちゃ難解なんですけど、それを読んで「すごいだろ」「もう星新一じゃないぜ」っていう感じを親に見せたくて。

幅:「新一は卒業したぞ」と。

福田:そう。でも全然進んでいないのを親が発見して、「無理して読んでるんでしょ?」みたいな指摘をされて、すごい恥ずかしかった。

幅:あはは(笑)。ちなみに僕は、先程の「ツケ制度」で一番覚えている読書体験は、『あしたのジョー』ですね。

福田:あぁ~。失礼ですけど、幅さんはおいくつでしたっけ?

幅:僕43歳ですね。

福田:じゃあ『あしたのジョー』は、単行本世代ですね。

幅:ちょっと後です。例の本屋さんにあって。で、読み始めたら、面白い面白い。一気にハマって読んでいたら、どんどんとんでもない展開になって。もう続きを読みたくて読みたくてしょうがなくなっちゃって、明日までガマンできない、でももう晩ごはんの時間で帰らなきゃいけない、どうしよう…となって、全買いですね。大人買い。

福田:えっ、まさか全巻ツケで?!(笑)

幅:そうです。人生初の大人買いは小4(笑)。店主も売れるのは嬉しかったでしょうけど、さすがに(そんなにいっぱい買っちゃって大丈夫かな?)みたいな目で見ていました。でも僕は「大丈夫です!」みたいな強い決意で。

福田:ツケだけど(笑)

幅:それでまあ持って帰って、晩ごはん食べたあとも読んで、ホセ戦まで一気に読んじゃって。最高に盛り上がって翌日すごい寝不足だったんですけど、やっぱり問題は月末に起こりまして(笑)。母が本屋にお金を払いに行ったら、その月だけすごい値段だったから「は?何?!」となって呼び出しをくらい…。で、僕はとにかく謝ったら負けだと思って…。

福田:ははは(笑)。正当化しなきゃいけないですよね、そこは。

幅:そう。謝ったら負けだし、いかに『あしたのジョー』が僕の心を打ったかを説明してプレゼンしようと思ったんですよね。で、実際に漫画を持って行って、どこがどう素晴しかったとか、いろいろ言うことを考えて。でも「実はこれ…」って漫画を見せたところで、母がいきなり「…ジョーなら仕方ないわね」って。

福田:通じてる(笑)

幅:うちのおかんが人生で一番寛大だったのは、その瞬間でした(笑)

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