キャラクタービジネスの知られざる歴史 -ミッキーからペコちゃんまで-| Talked.jp

Talked.jpby Sony Digital Entertainment

高橋:原作者のイアン・フレミングの権利が切れるんですよ。来年1月1日からパブリックドメインになる。なので、新たに小説展開ができるんですね。

福田:え?

高橋:「007」とか「ジェームズ・ボンド」っていう商標はイーオン・プロダクションズ社やMGMが持っているので使えないんですけど「ボンド・ジュニア」は使える。原作の権利が切れちゃえば、そこからスピンオフができるんですよ。それで、イギリスの人里離れた山の中にあるスパイ養成学校の寄宿舎に入る少年の話を考えているんです。
その少年は両親も天才スパイだったんだけど、謎の失踪をしていて、その謎を解くために寄宿舎に入るっていう。ちょっとどこかで聞いた感じですけど。

福田:面白い。

高橋:将来的には、ユニバーサルスタジオジャパンの『ハリー・ポッター』の横に、同じようなスパイ養成学校のアトラクションを作るっていう。

福田:いいですね。

高橋:あと、同じように『ピーター・ラビット』の絵本もやります。

福田:『ピーター・ラビット』もそうなんですか?

高橋:「ピーター・ラビット」の商標はダメなんですが、「ピーターズ・アドベンチャー」だけ商標権が空いているので、使っても問題ないんです。ちょっとだけスケッチをお見せすると、これ、ピーターがジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』を読んでいるうちに居眠りしちゃって、フッと目が覚めると船に乗ってて……。

キャラクタービジネスの知られざる歴史 -ミッキーからペコちゃんまで-

「ピーターズ・アドベンチャー」スケッチ

福田:(スケッチを見て)ピーターがでかいんですね。

高橋:でかいの。たどり着いたのがちっちゃいうさぎのリリパットラビットの国で、巨人になっちゃったピーターがしっぽとか縛られてんです。

福田:ちっちゃいうさぎに縛られてる。

高橋:このアレンジは『ガリバー旅行記』も『ピーターラビット』も著作権が切れてるから、自由にできるんですよね。

福田:すごいな。

高橋:ピーターの月世界旅行、ピーターの海底旅行って・・・。

福田:面白い。

高橋:ただ日本では福音館書店っていう老舗の絵本出版社がイギリスの出版社から翻訳権取ってるし、そのイギリスの版元が日本でも商標権取っちゃっているんで、タイトルに「ピーターラビット」は使えないんです。だから、「ピーターズ・アドベンチャー」でやろうと。  で、福音館書店に企画持ち込もうと思ったんですが「あれ、僕も絵本の出版社の経営者だよなぁ」と。スタジオ・ハードデラックスという編集とデザインの会社とは別に、絵本や児童書の出版社の経営も今年から任されてるんです。で、自分とこの利益にしないといかんだろう…と。なので我が社の営業部が「面白い!売りましょう!」と言ってくれたら、自分のところで刊行します。もちろん福音館書店さんにも挨拶しに行きます。
社員はちょっと困るかもしれないけれど…。
というのも、児童書の業界っていうのは、お互いこう仲良く、保守的な業界なのに、「この新しい社長、何やらかす気だよ」みたいな。
で、ひとつ困るのは、我が社で出せない…となった場合なんです。編集事務所の経営者ですから企画者としては持ち込んだ版元が乗ってくれなければ別の版元に持ち込み直すだけです。この企画、面白いのでオープンコンペで出版社決めてもいいくらい。でも、そうすると他の版元に利益が生じちゃう。出版社の経営を任されてる立場としては困る。
これ他社に回してヒットしたら経営者としては訴えられちゃうし、みんなも株主から叱られちゃうかも…と。いや社員を脅かしてどうするって話なんですけど。

福田:ちょっと震えますよね。 

高橋:「ええッ!」みたいなね。でも、こういう企画をやると、ピーターの話を考えたり描きたい子が集まるじゃないですか。だからまず『ピーター・ラビット』を自由に描ける「わんぱくうさぎのピーター スケッチコンテスト」をやろうと思ってんですよ。ちなみにピーターズアドベンチャーというネーミングは、僕が十代の頃にお世話になった福島さんの会社のスタジオ名のもじりになってます。

権利の隙間を見つけるライツシャーク

福田:つまり、そのキャラクターや物語の起源やストーリーや世界観をちゃんと熟知した上で、次の世代に何か物語を・・・。

高橋:投げるという。

福田:そこに高橋さんのすごさを感じます。

高橋:ていうか、僕の単なるいたずらなんですけど……。つまり、ジョークテロリストなんですね。

福田:エンタメ業界のテロリストということで。

高橋:ライツシャークって自称してるんです、最近。権利の隙間を見つけてガブガブ食ってくと、その後に小魚がワーッと来るっていう。小魚を成長させるために、権利の隙間を見つけるみたいな。ま、一番先に喰ってるのは自分ですけど…。

福田:なるほど

高橋:ちなみに僕の今の活動テーマは、10代、20代の若い連中に向かって、僕ら、もしくは僕らよりも上の世代の人たちが作り上げた一つのフィックスしたコンクリートを1回壊すか、全部は壊せないにしてもせめてヒビを入れることなんです。例えば、「ディズニーってうるさいですよね。権利怖いですよね」って、ディズニーを触らないんですよ、みんな。

福田:先入観で物事をとらえているんですね。

高橋:ちょっと待ってと。ディズニーだって著作権で切れたものもあるんです。それをアンダーグラウンドに悪く改変することは、確かに失礼だし、あり得ないと。だけど、ディズニーの過去について調べたり、権利が切れているものをリプロダクト……、つまりそれを使って違うものを作り直してみたり、そういうことはやっていいんだよと言いたいんです。空き地を作ってあげる仕事というか……。これまで大人が「この中に入ってはいけないよ」ってコンクリートのがれきでガチガチにバリケード張った場所を作り過ぎちゃったから、僕は一生懸命ほころびを見つけて、「ここでなら、やっていいんじゃない?」と興味を与えてあげたい。そういう仕事を見つけるのが今のテーマなんです。

福田:ありがとうございました。