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ネット革命が生んだ「メンター不在」

誰よりも早く、世界の未来図を知る  Talked.jp

福田:僕も以前、「インターネット前のビジネスってどうだったんですか」って、同じようなことを聞かれたので、考えたんです。僕は社会人1年生の時、映画会社の営業マンだったので、テレビ局に営業に行くんですよね。でも午前中に行っても、人があんまりいなくて。いてもセクハラ・パワハラの課長みたいな人で、常にくだらないギャグを言ってて、そこにいた人たちが一応つきあってゲラゲラ笑い、「以上、午前中終わり」ですよ。

小林:ははは(笑)。それも、時代ですね。

福田:そう。「インターネット以前」っていうと、そういうイメージしかないんですけど、それでも日本においては、インターネット以前のほうが生産性は高かったんじゃないでしょうか。

小林:あぁ。そうかもしれませんね。

福田:インターネットが登場して、仕事の仕方がめちゃくちゃ合理的になって、一人当たりの生産性が急に3倍になったってないですよね、どう見ても。「それはなぜだろう?」と思うんです。こんな便利になって、さっきのトレスコじゃないですけど、Macでぴゅんと出来るのに、なぜ仕事効率はそう上がらないのか。それが不思議です。

今は新型コロナウイルス感染症のパンデミック真っ只中ですけれども、リモートワークとかオンライン授業も、別な意味での格差が出てくるように思いますね。たとえば、「トレスコにポジフィルムを乗っけていた経験があるから、Macでもすごい仕事ができるようになるんだぜ」っていうことがあるとすると、今はメンター不在の時代ですから、ネットスキルは高い割に「作業はできるけど仕事はできない」みたいな……。精神論に戻るようなことが、実感としては増えている気がするんですよね。

小林:なるほど、そうですね。「門前の小僧がいなくなった」ということですよね。インターネット以前は、会社の先輩・後輩関係もマンツーマンで、なかなか濃密でしたし。ただ、その濃密さに昔は問題があって、パワハラやセクハラとか。

福田:先輩の理不尽な要求とかですよね。

小林:そうですね。その時代はその時代で、今思うと「いかがなものか」という事例も多かったんですけど。反面、そこから力を得ることはたしかにありました。僕が編集者をやっていた当時は、「赤入れ」といって、先輩や同僚が突き返してくる原稿チェックがあって。それによって、ものすごく力がついたということはありましたよね。でも今はその「赤入れ」がちゃんと出来ない編集者が増えていて……。誤解を恐れずに言うと、とくにウェブ媒体でお受けした取材の原稿の多くは、相当赤を入れることになるんですよね。テニヲハの間違いも多いけれど、そもそも「構成」という概念がないみたいで。テープ起こしそのままの文章だったり……。読者の方にわかりづらいかもしれませんが、要はこういった対談の、身内の話から脱線トークまで、全部そのまま記事にしているだけの原稿、という意味です。

福田:解説をありがとうございます(笑)。たんにしゃべったことを時系列そのままにまとめているだけなんですよね。つまり編集者として読者に伝えたい「テーマ」みたいなものが、全然絞り込まれてない。

小林:そうそう。だから編集者という職業にも、今は分断が起こっていますね。以前、とある紙媒体で、10年ぶりぐらいに知り合いの編集者からの取材のオファーがきて、受けたんです。そうしたら、僕がまったくしゃべっていないことも書かれていました。でも、それがめちゃくちゃ面白かったんですよ!

福田:ははは。創作!!(笑)

小林:本当に面白い原稿に仕上がっていたんです。僕が話したことは、一応たたき台にはなっていましたしね。つまり、本人の仕上げたいイメージは明確にあって、そこに登場している僕、というような感じ。編集テクニックの塊みたいなものがあって、だから、喋っていなかったけれど自分が言いそうなことばかりで(笑)、それで全然よかった。

福田:人間AI的なディープラーニングですね。

小林:はい。だって、実際に話したことよりも、さらに面白くなっていたから。

福田:すごいな。そのケースはないですねぇ。

小林:僕もめったにないです。僕のインタビューの場合、インターネット関連の専門的な話や新しい概念についての話題が多いから、勝手に誤読して誤解して、勝手に組み立てられてしまう場合が多い。そういう場合、下手すると赤入れに半日以上は時間をとられるので……。本当に、逆に請求書を送りたい(笑)

福田:本当ですね。小林さんに取材を申し込みたい編集者の方は、心してください(笑)

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