好きなことで生きていける
コミンズ:大人になって気付いたのは、うちの母親が言ってた「大人になることに対して」の教育の9割が、実際には違ってたということなんです。母としては、初めて子どもを育てるという意味で、「正しい子育て」だと思ってやっていたのは、大人になった今だからわかります。それはたぶん、母親自身が日本の教育のもとで育ち、自分の子どもが生まれたら、自分がもつ価値観の中でちゃんと育ってほしいから伝えたっていうものなんですけど。
福田:ホワイトライ(人を傷つけない嘘)だったのかもしれないね。
コミンズ:そうですね。もちろん、母親の名誉のためにも、倫理観とか、正義感とか、全力の愛情を持って子どもたちを育てるとか、そう言った部分に対する教育は素晴らしかったと思っています。ただ、やはり「大人になる」ということに対しては難しいですね。例えば、ほとんどの子どもたちが育てられているときに親は、「映画監督なんかなれない」「一握りしかなれない」って言うわけじゃないですか。僕も似たような感じでした。うちの父親が大学教授だったので、母親はたぶん、僕を医者か弁護士とかになってほしいと思っていたと思います。堅くて、資格があって、食いっぱぐれない職業。それか、それにニアリーイコールな大企業までだったと思うんです。でも、今では母親と話すときに、本人にも言ってます。「僕の知り合いで、写真家になりたいって言って、なれなかった人は1人もいないよ!」って。
福田:本当だ(笑)
コミンズ:みんな写真家になりたいと思って、ちゃんとなっている。もちろん、全員が篠山紀信にはなれないし、六本木にビル建てられるぐらい稼いでいるやつはいないですよ。でも、写真を撮って、飯を食っているからそれはもう写真家じゃん。みーんなやっているんだよ、自分が好きなことを。好きなことをやって生きていけないなんてのは、うそだからって。
福田:いや、いい話だね。
コミンズ:もしかしたら10年写真家をやって駄目で、たこ焼き屋の店長になるかもしれないけれど、たぶんそいつはハッピーだもの(笑)。写真家に憧れたけど、一回もその挑戦をせず、ずっと働きたくもないホワイトカラーの仕事やっているよりはね、っていうことは絶対に言いたいんです。
福田:相原コージっていう人の4コマ漫画で忘れられない話があってね。八百屋さんで、おばちゃんが一生懸命働いている俯瞰のコマから始まるんだけれど、「今日は大根が安いよ」とかのやり取りで、2コマ、3コマ…と進み、4コマ目で、天の声っていうかナレーションがつくわけ。「このおばちゃんは、実はIQ200を越えていることを生涯知ることはなかった」っていう。今の話は、生まれた場所とか親は選べないっていう話じゃなくて、やっぱり教育と、環境の話なんですよね。うちは両親ともリベラルで、一度も政権与党に投票したことないような、そんな人たちの子どもだったことと、次男ということもあって、「絶対このボタン押しちゃいけないよ」っていうボタンについては、「積極的に押せ」と育てられたんです(笑)。「そのボタン押したら面白いよ、指が取れちゃうから」とか言って、「え!?」って言いながら、そんなわけないと思って押したら「ほら大丈夫だったでしょ」っていうふうに。ずっとそんな感じで。
コミンズ:素晴らしいですね!
福田:だから僕は、新しいことをやることに対しても、リスクを取ることに対しても、なんにも怯えることがなかったんです。友人の社長が、「福田はいいな、いつも新しいことばっかりやって」と言うから、「なんで? やればいいよ」って返したんです。そしたら、「いや、自分は母親からいつも、新しいことやるなって、そう言われて育ったからできない」と。そこで、育った環境ってあるかもしれないなと思いましたね。そこを打ち破る力って、やっぱり友達とのコミュニケーションと、旅なんですよ。さっきリオさんが、「お母さんが言ったのは全部うそだった」と言ったけど、それも後から気付くことじゃない?
コミンズ:そうですね。
福田:だから雪国で閉ざされた環境で育って、ずっとその町から出ないでマイルドヤンキーを経て、そこで地元で就職しちゃったら、きっと一生気付かないことがある。友人の高城剛がいいことを言っていて「世界の移動距離と自分の感受性は比例する」と。本当にそう思う。だから、今はコロナで難しいけど、飛行距離って大事ですね。
コミンズ:そうですね。
福田:あんまり移動していない人っていうのは、一次情報に触れていない分、知らないことが多い気がします。体で知るっていう部分で言うと、とくにね。
コミンズ:本当に。ライフネット生命の創業者の出口治明さんも、「旅と本」と言ってましたね。
福田:旅と本だね。
コミンズ:そうです。また、これをやっていれば必ず人とも関わるので。この3つ、旅と本と人で、自分とは違う何か新しい発見をしたいですね。そこからしか生まれないですから。
福田:素晴らしいね。今日は改めて話を聞けてよかったです。僕もいい刺激を受けました。また、話しましょう!
コミンズ:ありがとうございます。ぜひ、また!
(了)
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