新規事業で大切なこと
福田:実際、守屋さんが新規事業を手掛けるとき、現状を「なんじゃこりゃ?」と嘆くのではなく、「いや、変えるぞ!」というような発想の転換をされるのですね?
守屋:ラクスルの場合ですと、僕が大切にしていたのは、「どうやって印刷会社の親父さんたちと仲良くするか」ということでした。僕たちが大規模な印刷所をつくって雇用していくとか、全自動で印刷するのであれば、印刷所の親父さんたちと仲良くする必要はないんですけど。それって今の時代に非効率ということで。
福田:まぁ、印刷会社自体は数多く存在していますからね。
守屋:はい。空いている印刷会社がたくさんあるので。だとしたら、印刷会社さんの親父さんとどれだけ仲良くなれるか、信頼してもらえるかが大事だと思うんですよね。それって他の産業セクターでも全部同じで、ITスタートアップする人たちって、旧来産業の人たちをどうしてもちょっと、斜め下に見てしまうところがあるんです。
福田:なるほどなるほど。
守屋:Slackで会話とかできないと、「チッ」とかなるわけですよ。そういった姿勢では、パートナーシップは築けない。だからラクスルでは、一緒になって、印刷現場の改善を頑張るように努めたのです。具体的にどうしたのかというと、ラクスルの人間が頑張ることはもちろん、トヨタで生産管理を極めてきた人や、Amazonで物流管理を極めてきた人にも参画してもらい、みなで印刷現場の変革を行ったんです。なにもこれは、印刷所だけに限らないのですが、いわゆるDXビジネスを構築しようとしたら、これをできるかできないかが肝だと思います。
福田:「これはいける!」というのは、やっていく中で分かってくる部分があるのでしょうか。それとも最初から直観的に「これはいける!」って思いますか?
守屋:僕の中には、「古い産業は全部いける」という感覚が、まず直観的にあります。そしてそれを誰がやるのかというとき、手掛けるその人が、その産業に思いを持っていることが、とっても重要だと思っていて。たとえば、ラクスルの代表の松本恭攝(まつもとやすかね)さんは、A.T.カーニー(アメリカの経営コンサルティング会社)で、事業会社のコスト削減プロジェクトにいた方です。その経験のなかで、印刷のプライシング(製品やサービスの価格設定)に疑問を持ち、「印刷会社の構造って何なんだろう」といろいろと勉強されて、その中でミスミという会社*の存在を知り、「印刷市場×ミスミ」がいけるとピンときて、そこでミスミ出身者を探して、結果僕に行き着いたんです。
福田:なるほど。そういうことなんですね。
守屋:だから、起業した初期の段階から、印刷産業のことが分かっていて、ミスミのビジネスモデルでいくことを決めていて、ミスミでずっと商売していた僕がいて……という。
福田:なるほど。そういうことだったのですね。
*カタログ発注でさまざまなメーカーの部品を調達できる仕組みを提供している。
https://www.misumi.co.jp