新しい「垂直統合」の仕方
福田:ところで、守屋さんは農業も手掛けているんですよね。具体的にはどういうことを?
守屋:会社名は「日本農業」といいます。通常、リンゴというのはヘクタール当たり20トンぐらいしか作れないものなのですが、僕たちは60トン作れるんですよ。なぜかというと、「高密植栽培」という、海外にはよくあるけれど日本ではあまり行われていない栽培方法を行っているからです。
僕たちのリンゴが特別に3倍になるような品種というわけではなくて。高密植栽培とは、世界的に主流となってきているコンパクトで収益性、効率化を求める栽培方法で、熟練技術者でなくても約6トンの反収を確保することが可能とされています。樹が一直線に並んでいるので効率良く作業することが可能であるほか、下枝の数が多いのではしごなしで作業する部分が多く、体力の負担の軽減に繋がります。新規就農者や高齢者でも取り組みやすい方式です。
福田:なるほど。
守屋:良いものを取り入れ、かつ規模を追求する、というか。日本で最も大きいリンゴ屋さんは、15ヘクタール持っていて、20×15で300トン。僕たちは8ヘクタールしか持ってないんですけど、60×8で480。だから僕たちのほうが、収穫量は上回るんですよね。今後で言うと、100ha、6000トンの生産を目指しています。
福田:それで、アジア中に輸出されている?
守屋:そうです。他にも、梨は梨で“根圏制御”っていう栽培法があります。こうした「農業のR&D」、そして高効率化した生産体制をさらに拡張させるための「投資」を行えば、まだまだ進化の可能性があると思うのです。ビジネスで言ったら、「普通」のことだと思うのですが。
福田:分かります。
守屋:ただ、その普通に、ということが、非常に困難。そんなことをする時点で、やっぱりちょっとアウトっぽい扱いを受けるというか。農業だけでなく、医療など、ありとあらゆる業界で同じようなことがあるから、もうちょっと普通に物事が進められるといいのになと思います。
福田:守屋さんのおっしゃることは、ものすごくよく分かります。僕も今年の3月に沖縄で農業を始めて、「これは絶対いける」と直感で思いました。まず、耕作放棄地があちこちあって、土地代がタダみたいに安い。これに最新のドロッピングと収穫のロボティックスを導入し、「食べチョク」のような直接販売(D2C)をやって、アジアまで販路を広げると …と想定して取り組んでいます。
でも既存農家はDXしてないし、流通から厳しい条件で縛られています。
守屋:そうですよね。おっしゃるように旧来型産業にはDXが必要なんだと思います。多くの20世紀型産業構造は、大企業が垂直統合するパターンでした。だからそこをITの力で水平分業してDXするんです。でも農業は逆で、水平分業され過ぎていて「分断」が産業の進化を遅らせていたんですよね。だから僕たちは、垂直統合構造に、産業のカタチを作り替えたんです。農家さんと組んで土地を持って、自分たちで選果場を作って、輸出するときは海外の輸出用コンテナを自分たちで手配、たとえばインドネシアなら、ジャカルタのスーパーの商品棚の確保まで、自分たちで垂直統合して商売しています。
福田:素晴らしいですね! それは何年ぐらい、やっておられるのでしょうか?
守屋:もう6年ぐらい経ちました。今、インドネシアで流通している日本産リンゴが10個あったとすれば、そのうち9個は僕たちのリンゴだと言えるんじゃないかな。タイだと10個に5個、フィリピンだと10個に4個、という感じ。日本と季節が逆のオーストラリアやニュージーランド辺りに製造拠点を作ると、赤道に向かって年中無休で出荷できるようになる。そうすることで「いったん地球儀の3分の1ぐらい制覇しよう」っていう話をしています。
福田:イチゴでも何でも、海外の果物って酸っぱいですよね。一方日本では、何でも甘さを追求するじゃないですか。それって、欧米系の人たちはどうなんでしょう? アジアはアジアで攻めたほうがいいかもしれないですね。
守屋:アジア、いけますね。たとえば、僕たちはサツマイモをどんどん、インドネシアに出しているんですけども、「焼き芋製造機」とセットで出しているんですよ。彼らからすると「こんなスイーツ食べたことない!」みたいなノリになるわけです。
福田:それは素晴らしいアイデアですね!