今必要な、農業のコンテンツ開発とは?
秋元:今の『食べチョク』のサービスは、昔からあるモデルではあるんですけど、誰も成功していなかった点が、資金集めの壁になった一理由でもありました。
福田:なぜでしょう? 僕、それは意外だなと思って。ビジネスモデルとしてはあったんですよね。
秋元:はい。これまでもいくつかあったんですけど、どこも成功していなかったんです。まず、こういう流通系は全てそうですけど、テイクレート(受託販売手数料率)をそんなに高く設定できない。私たちは19.7%ですけど、それでも高いと言われたりするんですね。
福田:でも農協に出したら、コンシューマープライス(消費者価格)の3割しか入らないのに、『食べチョク』経由だと約8割入るのですから十分じゃないですか。
秋元:直売所の手数料率も食べチョクと同じくらいなので、その点では多くの農家さんはメリットを感じてくれているとは思います。一方でこの2割というのは、投資家からすると低いと言われます。そのテイクレートじゃ、そもそも単価が低いのでやっていけない、と。
福田:ITビジネスだと、5割とかとるものもありますからね。
秋元:そうですね、それで単価も高かったりするじゃないですか。野菜は単価も低いのでテイクレートが低いとさらに厳しい。あとはやっぱり、例えばトマトだけだと、近所のスーパーでも買えますし。日本は物流が発達しているので、食材はすぐに買えるから、わざわざネットで取り寄せて、かつそれがトマトなどの単価が低いものとなると、なかなか訴求しづらいわけです。ネットスーパーなどが複数ある中で、「なぜわざわざ生産者直送で買うの?」というところが、ユーザーにしっかり説明できないとマーケティングもできないし、実際にお客様が集まらなければ手数料は低いので収益がなくて、大体2~3年で赤字で終わる……みたいなところがほとんどだったようです。
福田:なるほど。そこで改善点としては、どういう……ITっぽく言うと、コンテンツ開発を心がけたらうまくいったんでしょう。
秋元:サービスの受け皿と、新規獲得ですよね。サービスの中での体験で継続してもらうという、この2つの点でいうと、やっぱり新規のお客様へのメッセージは「物ではなくて、生産者訴求にする」というところです。「おいしいトマトあります」「おいしいカキあります」など、「おいしい」だけでは、他社のネットスーパーでも買えるわけですよね。なので、ページで訴求するのは生産者の思いとこだわりのところに振り切って、メディアでの発信もそっちに振り切りました。
あとはサイトのトップページを見ていただくとわかるのですが、実は弊社では、一番上に「商品」ではなく、「ユーザーからの投稿」を載せているんですね。「コンバージョン(ECサイト上で獲得できる最終的な成果)を持ったものをなるべく上に置く」というウェブのセオリーからいくと、絶対に商品を置いたほうがいいんですが、ここは意思を持って、トップに「ユーザーからの投稿」を置いています。というのは、お客様はサイトに飛んでくる時、細かい説明文を読まないんですよね。aboutページなどは、ほとんど読まないので。パッと見たイメージでそのサイトを理解する、と考えた時に、商品が並んでいるだけでは、「ただのECサイトか」で、たぶん終わってしまう。でも上にユーザーの投稿や生産者コミュニティを出しておけば、「つながるサイトなんだな」というのを直感的に理解してもらえるので、そういう設計にしています。
福田:素晴らしいですね。
秋元:そういう、本当に細かいところをこだわっています。