“のん”という熱量が生んだ映画『Ribbon』
(後編)
製作統括・福田 淳×エグゼクティブ・プロデューサー・宮川朋之
編集・構成:井尾 淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2022年2月22日
宮川 朋之 (写真/ )
日本映画放送(株) 執行役員 編成制作局 局長
1967年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒業。
日本映画放送株式会社 執行役員・編成制作局局長。「日本映画専門チャンネル」「時代劇専門チャンネル」の開局(1998年)から編成、企画を担当。
2011年から時代劇専門チャンネルのオリジナル時代劇として、「鬼平外伝」シリーズ、 「藤沢周平 新ドラマシリーズ」など全23作品を企画、プロデューサーを務める。
主な劇場映画として2010年「最後の忠臣蔵」(杉田成道作品)、「LIAR GAME The Final Stage」(松山博昭作品)、2016年「リップヴァンウィンクルの花嫁」(岩井俊二作品)、2017年「海辺のリア」(小林政広作品)、2020年「8日で死んだ怪獣の12日の物語」(岩井俊二作品)、2022年連続ドラマ「おいハンサム~」(山口雅俊作品)など。
23年以降、劇場公開予定作品として、池波正太郎原作「仕掛人・藤枝梅安」「鬼平犯科帳」のエグゼクティブ・プロデューサーを担当。
福田 淳(写真/ )
スピーディ・グループ C E O
金沢工業大学大学院 客員教授 / 横浜美術大学 客員教授 ソニー・デジタルエンタテインメント社 創業社長 1965年 日本生まれ / 日本大学芸術学部卒
企業のブランドコンサルタント、女優”のん”をはじめ俳優・ミュージシャンなどのタレントエージェント、ロサンゼルスのアート・ギャラリーSpeedy Gallery運営、エストニアでのブロックチェーンをベースとしたNFTアート販売、日本最大のeコミック制作、日本語、英語圏での出版事業を主なビジネスとしている。
その他、スタートアップ投資、沖縄リゾート開発、米国での不動産事業、企業向け“AIサロン‘を主宰、ハイテク農業、ゲノム編集による新しい食物開発など"文明の進化を楽しむ"をテーマに活動している。
カルティエ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」、ワーナー・ブラザース「BEST MARKETER OF THE YEAR」など受賞。著書、講演多数。
公式サイト:
http://AtsushiFukuda.com
『Ribbon』は誰も謝らない映画
福田:のんが監督・脚本・主演を手がけるのは、劇場映画では初なんですけれども、YouTube Original作品の『おちをつけなんせ』(2019年)では桃井かおりさんに出演していただいて、同様に監督・脚本・主演を務めました。なので、厳密にいえば、監督作品としては2作目です。
今回の「Ribbon」は、上海国際映画祭でもピックアップしていただいて、チケットが5分でソールドアウトしたんですよ。でも、中国の方の感想を見ると、「面白かった」「よかった」というのと、「ここはどうなんだ?」という多様で自由な意見があり、それはそのまま本人にフィードバックしました。「荒削り」という部分をどういう形で成長させていくのか、そこはクリエイターとしての課題だなと思っているので、あえてそうしたんです。
僕は今56歳ですけど、過去の自分の至らなさみたいなことは、歳を取らないと分からない。でも自分は若い段階で「お前、それ違うよ」と周りからあれこれ言われてしまう時代を生きてきて、それが嫌で嫌でたまらなかった。だから、人にはあまり言いたくないんです。だって本当に才能がある人だったら、自分で見つけ出すはずだし、結果も出すわけですからね。
宮川:そうですね。二人とも何も言わないことが仕事だったかも。瞬発力と反射神経で一気に作り上げていったほうが良い作品になると感じていました。このコロナ禍で劇場映画を作りたいという情熱に対して、誰も余計なことを言うべきではないというか、ね。脚本で感じた熱量は、映像化によってさらにパワーアップしたと思います。
それに、この映画、出演者全員だれも謝らないんですよ! 凄い感性だなと思いました。謝る行為って、相手に対して申し訳ないという思いよりも、自分を守るという側面が強いと思うんですよね。
福田:そう。びっくりしました。なぜかっていうと、日本映画って、登場人物がやたら謝るので……。ごめんなさい、ごめんなさいって。でも『Ribbon』では誰も謝らない。
宮川:謝らないということ自体、悪いことではないですし、そういう意味でこの作品は日本人的ではないし、国境を越えている感じがしますね。
福田:つまり、のん自身に「忖度」という概念がないということなんだと思います。この日本の社会では、「とりあえず謝っておこう」「丸く収めておこう」というイメージがあるじゃないですか。だから、事象、事象、事象でくくってしまう。それに対して『Ribbon』の主人公は「これ何?」「これ何?」「これ何?」ということの連続でおそらく生きている。世の中のフレームの中で、コロナの緊急事態宣言とか、本当に仕方がない部分での置かれた状況というか。理解ですよね。…ドラマ『日本沈没』についてはしつこいんですけど、あれはみんながみんな、自分の立場を守ろうと考える余り、対応が遅れた人たちの話じゃないですか。映画のドラマツルギー(*4)として、日本が沈没するのを待ってあげているような作り。僕だったら初日に全部沈めちゃうな(笑)
宮川:そのほうが面白かったかもしれませんね(笑)
福田:あれだけ意訳することを原作の小松左京さんのご遺族が認めたのであれば、もっと大胆な世界に通じるような脚本を見つけるまで、徹底的に作るべきだったかなあと、僭越ながら僕は思うんですよ。
宮川:そういう意味では、『シン・ゴジラ』ってすごいなと思います。『シン・ゴジラ』は日本で起こった二つの災害、津波と原発事故にゴジラを重ね、国の脆さと強さに切り込んでいるように思えました。
福田:すごいと思う。それは逆に、ミニマムな世界をめちゃくちゃ追求していると思う作品だからですよね。
先日、知人のメディア関係の教授との雑談で出てきた視点が、とても面白かったんですよ。ドラマ『日本沈没』で北海道が全部沈もうとする時に、研究者の田所博士という登場人物が、パソコンのキーボードを“カチカチカチカチカチカチカチカチ、パン!”とやって、「生き延びた!」…となるんですけど。「もう、ドラマのストーリーをパソコンで解決させるのはやめようよ!」っていう話になったんですけどね。だってその手のシーンが出てくるのは、日本のエンタメだけですよ。パソコンが最後に結論付けるオチ。これ100回以上出てくるんじゃないでしょうか。「それが人間の解決力を弱めている!」とすら思えてきて。カチャカチャカチャカチャパン!「助かった!」…んなわけないだろって、ツッコみたくなる。なんだろう、その生きていることに対してのリアリティのなさは……。僕はあの手のパソコンが物事を解決するシーンが出てきたら、その作品は認めない、ということにしました(笑)
宮川:素晴らしい(笑)
(*4)演劇などを製作する際の理論、技法を指す言葉