暗号貨幣から「経済の多層化」社会へ(前編)

暗号貨幣から「経済の多層化」社会へ
(前編)

編集・構成:井尾淳子
撮影:越間 有紀子
日程:2022年2月17日

中村 宇利(写真/左)

1964年三重県生まれ。(一社)情報セキュリティ研究所代表理事、(株)エヌティーアイ代表取締役兼グループ代表、(株)中村組代表取締役を務める。慶應義塾大学大学院理工学研究科機械工学専攻、及びマサチューセッツ工科大学大学院海洋工学科、機械工学科、土木環境工学科にて各工学系学位を取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンを経て、マサチューセッツ工科大学客員研究員に就任し、コンピュータ・アーキテクチャー、及び情報セキュリティを研究。非ノイマン型論理回路であるコグニティブプロセッサーの開発に成功。その後暗号技術を完成させ、その応用技術として、エンド・トゥ・エンド・プロテクション通信システム及び暗号貨幣(クリプトキャッシュ)を開発した。

福田 淳(写真/右)

スピーディ・グループ C E O
金沢工業大学大学院 客員教授 / 横浜美術大学 客員教授 
ソニー・デジタルエンタテインメント社 創業社長 
1965年 日本生まれ / 日本大学芸術学部卒

企業のブランドコンサルタント、女優”のん”をはじめ俳優・ミュージシャンなどのタレントエージェント、ロサンゼルスのアート・ギャラリーSpeedy Gallery運営、エストニアでのブロックチェーンをベースとしたNFTアート販売、日本最大のeコミック制作、日本語、英語圏での出版事業を主なビジネスとしている。
その他、スタートアップ投資、沖縄リゾート開発、米国での不動産事業、企業向け“AIサロン‘を主宰、ハイテク農業、ゲノム編集による新しい食物開発など"文明の進化を楽しむ"をテーマに活動している。
カルティエ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」、ワーナー・ブラザース「BEST MARKETER OF THE YEAR」など受賞。著書、講演多数。
公式サイト:
http://AtsushiFukuda.com

暗号の歴史から生まれたもの

福田:本日は、デジタル通貨で世界的変革を巻き起こしている中村宇利さんをお迎えしました。このメディアをご覧になっているのは一般的なビジネスマンの方が多いので、できるだけ分かりやすくご紹介していきたいと思いますが、もっと深く知りたい!という方は、ぜひ中村さんのご著書『暗号貨幣(クリプトキャッシュ)」が世界を変える! 』(集英社)を読んでいただければ、ピカーっと頭が冴える、ということになっています。

中村:ありがとうございます(笑)こちらこそ、本日はよろしくお願いいたします。

福田:よろしくお願いいたします。僕は中村さんのご著書を拝読して、中村さんが開発された完全な暗号貨幣(*以下、クリプトキャッシュ)によって、社会はさらに大きく変わるだろうと感じています。このクリプトキャッシュを含む暗号通貨についてはニュースに出ない日はないほどの社会的関心事ですが、暗号そのものの始まりには、じつは長い歴史があるんですよね。

中村:はい。とても長いです。近代暗号と言われるものもみんな同じ構造を持っていて、しかもギリシャ時代から変わっていないと言われています。暗号アルゴリズムという「どうやって暗号化するか」という話と、「暗号鍵」というものがあります。暗号鍵があれば暗号は解けるのですが、「ないと絶対に開きませんよ」というものをどう作るか。それを紀元前からこの間まで、ずっと研究されてきたわけですね。

福田:歴史の話でいうと、やっぱり戦争のために暗号化が必要だったからでしょうか?

中村:それもあります。あと、約束事をしたときに、勝手に改ざんされては困りますよね。 お互いに「これだったら間違いないものですよ」というかたちで残す等、目的があったのだと思います。暗号そのものを王様等の権力者が使っていたので、いろいろと秘密があったのでしょう。そういったことを暗号化して民衆に漏れないように、あるいは自分の政敵に漏れないようにしたという話があります。

福田:権力者から始まって、暗号が発達してきたという歴史が面白いですね。

中村:ええ。例えば、「3日後に総攻撃を行うぞ」というときは、3日間は絶対に守られる暗号が必要です。そういうかたちで、暗号は戦争で多用されました。第二次世界大戦の最中に使われたエニグマ(*1)は、映画にもなりましたし。 世界最初のコンピュータはいろいろあるのですが、エニグマを破ったといわれるコンピュータがその1つで、英国の天才数学者アラン・チューリング博士が開発しました。世界で初めて、ソフトウェアという概念を考え出した人ですね。そしてこのあと詳しくお話しをする、情報理論の父と呼ばれる数学者のクロード・シャノン博士という方がMITの学生だったとき、マスター論文でテーマとしたのが「電子回路で計算ができる」という概念です。この2つが合わさって、コンピュータというものができあがっていくわけです。

福田:ということは、暗号の歴史がコンピュータを生んだとも言えるわけですね。

中村:そうですね。昔は紙と鉛筆で暗号をつくりましたから、当然時間がかかります。解く側も当然、紙と鉛筆ですから時間がかかる。でもそれでは間に合わないので、今度は専用機ができた。すると、その専用機に対してはやっぱり専用機で解かなければいけない。エニグマは専用機だったんですね。タイプライターのような形をしていて、例えば誰かが「A」を押すと、「A」ではなくて「Z」のランプが付いたりする。それを隣にいる人が書き留めておいて、今度は「B」を押すと「C」が付くとか、「C」を押すと「X」が付く……というのを書き留めておく。それを逆に押していくと、元に戻りますよね。そういうかたちで使われていたのが、エニグマの初期のものです。 そしてこれを解いたのは、実はイギリスではなくて、ポーランドでした。ポーランドの学者なのか、機密部隊なのかまでは分かりませんが、そういう記録が残っています。ポーランドはナチスによって陥落する以前にイギリスに情報を渡していたのですが、その後エニグマはプログラミングができるようになりました。回路を自由に変えられるということは、プログラムをするということと等しいわけですけど、そうすると、解く側もまたプログラムが必要になります。ここで既述の、アラン・チューリングが現れるわけです。

(*1)第二次世界大戦でナチス・ドイツが用いたローター式暗号機。その暗号の解読に英国の天才数学者チューリングらが成功した。

TOPへ