「プルーフ・オブ・ワーク」は王様ゲーム
福田:そんな問題があるのに、何十年経っても改善されていない。でも今「暗号通貨だ!」と騒いでいる人は、「これほどセキュアなものはない!」という認識にさえなっていますよね。
中村:そうなんです。そう信じている人たちがたくさんいらっしゃるので、私がいろいろな人にお話しをしていいものなのかどうか、迷う部分があります。なぜかと言いますと、すでにビジネスをされていて、「そういう世界がもうあるのだから、邪魔をしないでほしい」という方もいるかもしれないので……。
福田:でも、中村さんのご著書を拝読して、僕には明解でしたよ。ビットコインでもイーサリアムでも、「なぜ使い勝手が悪いのか」という説明の中で、「何かの決済をするのに、半日もかかるようなものが使えるわけはないだろう」というお話もありましたよね。
中村:はい。じゃあ「銀行の送金にどれだけかかりますか?」といったら、10分も15分も、場合によっては半日くらいかかったりしますよね。海外送金だと翌日になったり……。 それらが全部長いから悪い、と言っているわけではないんです。私が申し上げたいのは、このような脆弱性を抱えている仕組みそのものについて、です。さらに、システムとして、みんなが台帳を持って、自分と関係ない取引まで記録し監視するというのはどうしたものかと思うわけですね。
福田:素人理解ですけれども、ブロックチェーンのブロックに書かれているものを1つ1つ信認していく作業の中に、「その台帳は本物か」と遡っているから時間がかかるわけですよね?
中村:……と、皆さんは思っているわけですけど、実はそんなことはやっていなくて、10分の間でやっているのは、単に王様ゲームなんです。「プルーフ・オブ・ワーク」(*4)というとかっこいい名前ですけど、事の真実は王様ゲームをやっているだけ。つまり、誰か1人キングを決めて、「そのキングが言う通りのブロックをつなぎましょう、その例外はありません。その代わり、キングになれた場合には報酬は得られますよ」と。簡単に言うとこういう仕組みです。
福田:1つを代表させて、あとは「以下同文」にしちゃっている部分をみんな知らない、ということですね。だから、ちゃんと全部、10年なら10年の歴史の台帳をめくって見ているわけじゃない。
中村:そうですね。それもできるんですよ。ただ、その10分のうちにやっているのかと言われると、普通はやっていないという意味です。取引の内容が真実であろうがなかろうが、時間が経ってキングが「これをつなぎますよ」と言えば、もうつないでしまうわけです。
(*4)不特定多数の参加者の中での合意形成方法(コンセンサスアルゴリズム)の1つ